■“人生こうだったらいいのに”という願望の投影

“おじさん”タイトルのアニメが連発されている背景には、10年ほど前から始まっている原作の下地がある。先に挙げた『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』(KADOKAWA)も連載開始は12年、アニメ化されたのは21年になってからだ。

「“なろう系”の書き手には少年漫画やラノベを通った人も多く、そうした大人が好む物語として、主人公が大人の異世界転生ものがあります。総じて“人生こうだったらいいのに”という願望がファンタジーとして素直に描かれているように感じます。

 特長は、漫画にしても映画にしてもそうですが、昔は主人公が非日常の世界に行って成長して帰ってくるパターンが王道だったのに対し、異世界転生は別の世界で人生をやり直し、元の世界に帰ってこないという点です。現実世界は一旦終了して、行った先で無双する。書き手も読者層も成人というなかで、そういった設定が共感を集めて人気ジャンルとなり、追ってアニメ化されるようになったということでしょう」(前出のいしじまえいわ氏)

 とはいえ、おじさんが活躍するアニメは、もちろん異世界転生ものばかりではない。

「ラノベ発の異世界転生もののように“読者の理想”を描く以外に、おもしろみのあるキャラクター設定としておじさんを使うパターンもあります。

 こちらは少年誌由来のものが多く、たとえば『少年ジャンプ』(集英社)連載で、来年テレビ東京系でアニメ化が決定している『SAKAMOTO DAYS』がその例です。主人公は元殺し屋と“実は強い”設定で、ギャグ性が強いながらもきちんとカッコイイのですが、理想や共感を得るというよりは、単純にエンタメとして読者が楽しめる作品となっています」(前同)

“実は強い”キャラでも、“理想の自分の人生を生き直す”キャラでも、作品内でおじさんの活躍が描かれることに変わりはないが、アニメという表現が子ども向けのものから全世代のものになってきたと考えれば、おじさんが主人公である作品が多くなっている事情は納得がいく。

「任侠映画や時代劇など、昔からおじさん向けの非日常的作品ジャンルはあって、そのポジションをアニメ作品が担うようになってきたということですよね。アニメ視聴が一般化したことを考えれば自然な変化だと思います。その上で近年の特長を挙げるとすれば、自分がこうだったらいいのに、という自己投影感が強い点かもしれませんね」(同)

 アニメ化されていないおじさん主人公の小説や漫画はまだまだあることを考えると、おじさんアニメはこれからしばらく続きそうだ。

いしじまえいわ
アニメライター/講師/コンテンツコンサルタント
「アニメ業界ライティング講座」講師/ 「IMART2023」運営委員/長崎行男・著『埋もれない声優になる! 音響監督から見た自己演出論』(星海社)構成など