■シャボン玉のように美しくて儚い時を刻む空豆と音
音は、ユニット名を『ビート・パー・ミニット』にした。一分間に刻むリズムを意味していることから、自分には絶対リズム感があるという話をする音。それは、雨が降る速度も一定ならわかるというものすごい特性で、これには空豆も驚く。
だけど、音が持っている特性を知った喜びというより、テンションが高まったといった様子だった。思いついたように手首を急につかまれても、少し反応したぐらいで落ち着いていたし、1分間の心拍数が73ぐらいということは、正常値だ。
空豆は、隣に音がいてくれたら心から落ち着くのだ。そして、「いつか空豆の心拍数で曲書こうかな」なんて、空豆が思いつきで言ったことを、いつか実現してくれそうな優しさが心地いいのだ。
だから、音がデビューすることはうれしいけれど、なんとなく寂しくなってしまう。空豆と音は、今は同居していることで家族のように接しているが、特別な関係ではない。恋人でもないから繋ぎ止める理由もないし、物理的にも心理的にも遠くへ行ってしまうのではないか不安になるのだ。
だけど、遠くへ行ってしまうのは空豆も同じだ。ファッションという広い世界の入口に立ち、これから見るもの知ること全部が新鮮で喜びになる。夢中でデッサンしたり、生地を切ったり縫いつけたり、時間も忘れて没頭していくだろう。今、二人が同じ時間を過ごしていることが、どれほど貴重で美しいかは、きっともっと後になったら分かるだろう。
それは、思い出すと、縁側で作ったシャボン玉のように七色に輝くような時間。だけど、ふわりと浮かんでパッと消えてしまうような儚いものになってしまうのかもしれない。(文・青石 爽)