1980年代以降に少年期を過ごした人たちにとって、忘れがたい児童書と言えば、何を思い浮かべるだろうか。累計発行部数2500万部の『ズッコケ三人組』(ポプラ社)は、78年に発表されて以来、40年以上経った今もなお、小中学生に愛されている人気シリーズだ。

「ズッコケ三人組は、2004年12月に刊行された『ズッコケ三人組の卒業式』で、一度完結したあと、中年版ズッコケ三人組シリーズが出版されているんです」(書評雑誌ライター)

 元気者のハチベエ、博識なハカセ、おっとりしたモーちゃんの3人の小学6年生を中心に、小学校生活と時代に沿った社会風俗を織り交ぜ展開する物語だったが、翌05年からは40代になった彼らを描く物語が刊行されていたのだ。

「不惑を超えても変わらない主人公たち友情はエモく、浮気や不倫など、その生々しい人間関係は、胸が苦しくなる、と新作が出る度に話題になりました」(前同)

 ズッコケ中年三人組シリーズの編集者で、作者の那須正幹氏を間近で見てきた、版元のポプラ社・門田奈穂子氏は、当シリーズを、こう語る。

「ハチベエは、会社の社長などにはなっておらず、家の八百屋をコンビニにして店長に。モーちゃんは失業していて、ハカセは独身で小学校の先生をしています。小学生の頃から読んでいると、“夢を壊さないで……!”という部分もなきにしもあらずですが、先生が言うには、おとぎ話ではない、リアルな姿を描きたかったそうです」

■作者が語る、中年版ならではの“苦労”

 作者の那須氏は中年になった彼らを描く上で、小学生時代とは違った苦労を覚えていたという。

「小学生のときは、何かあればすぐに遊びに出掛けられたけど、中年だとそれぞれの置かれている環境、仕事や家族サービスで、すぐに集まれず、三人の予定が組みづらいと言っていました。そんな苦労も楽しみながら書かれていました」(前同)

 作中ではできちゃった婚や、スナックのママを口説くなどの大人こそ分かる色恋のシーンや、バイトで一人暮らしをする中年の寂しい食卓や、小学校時代の恩師の死などビターな描写も数多い。

担任だったタクワンこと宅和源太郎先生が亡くなる『ズッコケ中年三人組age46』 ※撮影/編集部
担任だったタクワンこと宅和源太郎先生が亡くなる『ズッコケ中年三人組age46』 ※撮影/編集部

 那須氏は本シリーズを執筆する上で、一つの重要なテーマを掲げていたという。

「中年三人組を書くにあたって、今の40代が年齢的にぶつかる育児や介護、近親者の死といった問題を取り上げるような作品を作りたいとおっしゃっていました」(同)