■低山登山の醍醐味の一つ「山岳展望」の楽しみ方

 続いては関東地方。

 大都会・東京にあって、歴史と神話にあふれる名低山が、青梅市の御岳山だ。

「南関東を一望できる眺望が魅力の御岳山は、山頂の武蔵御嶽神社に多くの神様が鎮まる山でもあります。本殿に珍しい占いの神様・櫛真智命が、また、奥の大口真神社に魔除けのご利益があるとされる“おいぬ様”こと、ニホンオオカミが祀られています」(前出の大内氏)

武蔵御嶽神社の本殿を守る、ニホンオオカミをかたどった珍しい狛犬 ※
武蔵御嶽神社の本殿を守る、ニホンオオカミをかたどった珍しい狛犬 ※画像はphotoACより

 同神社では、毎年1月3日に牡鹿の肩甲骨を焙(あぶ)り、その年の農作物の生育を占う貴重な神事、『太占祭』が行われるなど、農業の神様としての顔も併せ持つ。

 東海地方では、富士の山容を味わえる静岡県焼津市の満観峰を取り上げたい。

「日本一高い山・富士山と日本一深い湾・駿河湾の絶景を見渡せる山です。山頂に広い展望スペースがあり、大パノラマが広がっています」(前同)

 低い山から高い山の山容を楽しむことを“山岳展望”と言い、低山登山の醍醐味の一つでもある。

「生活目線だと見えない風景、例えば富士山なら、山の麓にある湖や樹海などをセットで視界に捉えることができる。これまでと違った魅力に気づくはずです。グーグルマップをズームして、街を見るような面白さがあります」(同)

 満観峰登山では、“寄り道”も楽しみの一つだ。

「登山口に向かう街道沿いに花沢の里という、30戸ほどが並ぶ小さな集落があります。昔ながらの石積みの土台や木造家屋に風情があり、懐かしい気持ちを味わえる。国の重要伝統的建造物群保存地区ですが、最近はカフェなどもできて、下山時の休憩にもってこいです」(前出の登山ライター)

 赤く色づいた木々を楽しみながら、温かいコーヒーでホッと一息。

 都会にはない贅沢な時間が味わえそうだ。

大内征(おおうち・せい)
1972年生まれ、宮城県出身。低山トラベラー、山旅文筆家。歴史や文化をたどりながら、日本各地の低山や里山を訪ねる歩き旅をライフワークとする。知的好奇心を刺激する“山里歩き旅”の楽しさを様々な形で伝えている。2016年4月から現在まで、NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」を担当している。