■古いけど新しい『光る君へ』

 たしかに、少女漫画のような彰子の“やりすぎ純愛”だったが、一方で、まひろが物語で藤壺に不義の子を産ませるエピソードを書き、道長に娘・賢子が“不義の子”だと匂わせるシーンも。こちらも、《道長に読ませれば、すべてバレるとわかっていながら、そこを描くまひろちゃんに作家魂を感じる》など、ヒリヒリした空気感が好評。

 そのほかも、御岳詣での断崖絶壁を登る危険なシーンや、伊周による道長暗殺を隆家(竜星涼/31)が防ぐなど、スリリングなエピソードは盛りだくさん。まさに、大石静氏の「平安時代のセックス&バイオレンス」という構想通り、振り切った回だった。

 近年のドラマは世相を反映してか、登場人物がまわりに気をつかう、クリーンで優しい作品が多い。今期でわかりやすいのは、目黒蓮(27)主演の月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)だろう。登場人物がみな、その優しさゆえに苦しんでしまう、よく言えば、意識の解像度が高くなった、令和ならではのドラマだ。しかし、解像度が高いからといって、それが面白さにつながるとは限らない。

 大石静氏は9月15日公開の「文春オンライン」のインタビューで、《今のこの閉塞的な時代に「やりたい放題でもいいんじゃない?」という気持ちも、脚本に込めました》と語っている。令和の世相だからこそ、登場人物が周囲を気にせずやりたい放題、セックス&バイオレンスを繰り広げる『光る君へ』をぶつけたのだろう。

 もし、この内容を現代版のドラマで展開したら、その倫理観のなさに「不謹慎」だと炎上していた可能性は高い。平安時代を舞台にした『光る君へ』だからこそできたのだ。

 次回は清少納言(ファーストサマーウイカ/34)が再登場し、まひろが道長の指示で物語を書いたことを知ったため、伊周(三浦)を巻き込んでバチバチになりそうだ。さらに、道長の不義が妻・倫子(黒木華/34)にバレそうという流れも。それぞれのバトルが存分に楽しめそうだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。