中東のレバノン各地で、イスラム教シーア派組織「ヒズボラ」のメンバーが持っていたポケットベル型通信機器が一斉爆発する事件が発生。多数の死傷者が出たことで中東の緊張が一層と高まると同時に、“遠隔操作でポケベルを爆発させる”という前代未聞の手口が世界中を震撼させた。

 一方、久しぶりに「ポケベル」という文字を目にして、懐かしさを感じた世代もいるはずだ。日本では2019年にサービス終了となったポケベル。1960年代から存在していたものの、当初は刑事、新聞記者、外回りの営業マンなどが連絡を取る手段として使用することが多かった。

こうした流れが変わったのは、88年に数字をメッセージとして送れる機種が登場してから。90年代に入ると、女子高生を中心に人気爆発することになる。

トレンドウォッチャーとして知られるコラムニストの木村和久氏は、「ルーズソックス、プリクラ手帳、ポケベルが女子高生の”三種の神器”とされていました」と目を細めながら述懐する。

「ポケベルが若者のコミュニケーションに与えた影響は、非常に大きかった。それまでは好きな女の子の家に電話すると、相手の親が出てきて気まずい思いをすることがしばしばありましたから。数字しかメッセージは打てなかったものの、そのもどかしさも若者の気持ちにフィットしたんでしょうね」(木村氏=以下同)

■単なる語呂合わせを越える難解な暗号

《14106》
《33414》
《045105110》
《49106841》
《9020296―0906》
《01048―25―1107》

 すべて解読できる方はどれくらいいるだろうか?

《14106》は、冒頭の「1」を「i」と読み《アイシテル》。
《33414》は語呂合わせで《サミシイヨ》。
《045105110》は、「5=ファイブ」から《オシゴト、ファイト》となる。

 以降は、順に

《49106841》が《シキュウテルホシイ》。
《9020296―0906》は《カンニンブクロノオ、キレル》。
《01048―25―1107》が《ワタシハツゴウノイイオンナ》

 と読み、もはや語呂合わせを逸脱してモールス信号、あるいはスパイの暗号のようではないか。

「これらの難問を読み解いたときの光悦感は何物にも代えがたかった。“コンピュータの父”“AIの元祖”と呼ばれるアラン・チューリングは、エニグマという暗号を読解したことから50ポンド札にも描かれる偉人となったわけですよ。暗号の読解に全人類の夢と未来が詰まっていることは明々白々です」

 木村氏の主張は、大袈裟なものでもない。

 歴史を振り返ると、94年から95年にかけて、ポケベルは数字だけではなくカタカナやアルファベット、絵文字も表示できる機種が登場。その人気はいよいよ頂点を極めた。