■『おむすび』は2つの震災を描く可能性が

 また、取り上げられる震災は、阪神・淡路だけではなさそうだ。本作は“激動の平成から令和”を描くとされていて、ドラマの現在は2004年(平成16年)。ということは、その7年後の東日本大震災も、当然、扱うことになるだろう。ギャルが登場するなど、一見すると明るい物語のようだが、実はシリアスな描写が多くなるかもしれない。

 さらに、時代背景も実はそれほど明るくない。2004年はバブル崩壊後の就職氷河期で、世はデフレの真っ只中。多くの人々は先の見えない不安に包まれていた。そこに東日本震災が追い打ちをかけ、経済は低迷し、その後、失われた30年(1990年代初頭~2020年代初頭)と言われるようになった。

 これらをそのまま描けば、かなり暗い物語になることは間違いない。だからこそ、1990年代に全盛だったギャルが、2004年では時代遅れに見えるとしても、あえて登場させたのだろう。どんな場面でもイケイケで明るく、ポジティブに乗り越えていく“ギャル魂”は、『おむすび』の物語に絶対、必要なものだったのだ。

 本作の制作統括の宇佐川氏はインタビューで、「2004年ぐらいは不安な時代と言われているけれど、それでも、なんとか生きてきたし、楽しかった」と振り返っている。これこそがギャルのあり方そのものであり、この作品のベースになっている思想だと思われる。

 結(橋本)は福岡で平成ギャルになり、神戸、大阪へと移り住み、栄養士の道を歩んでいく。人の心と未来を結んでいき、失われた30年を明るくポジティブなものに変えられるかは、ギャルハシカンにかかっているといってもいい。これまでの演技を見る限り、どうやらそれは成功しそうだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。