■斉藤を「メンバー」と呼んだ局、呼ばなかった局

 鎮目氏によると、書類送検された芸能人・著名人を報じる時の呼称は「各局基準による」という。

「まずマスコミの基準として、罪が“確定”していない書類送検の場合、一般人と公人とで匿名・実名を分けます。一般人なら原則匿名。社会的影響が大きかったり、公益に関わる人の場合、肩書きや敬称を付けます。まだ有罪になっていないのに、実名をさらしたうえに呼び捨てにすると人権無視になるのではないかという配慮ですね。

 そもそも法律的には、嫌疑がかかって起訴されるまでは『被疑者』、起訴されたら『被告人』という呼び方をします。ただし報道機関では“被疑者”と“被害者”が紛らわしいとして、逮捕されるまでは伝統的に“容疑者”という言葉を使う。“容疑者”はマスコミが作った言葉なんです」(鎮目氏=以下同)

 ならば斉藤についても、“容疑者”と呼べばいいのではないかというと――。

「呼称をつけるのは罪が確定しない人の人権を守るため、という本来の意義に照らすと“さん”でもいいわけです。でも、書類送検とはいえ暴行は認めているとなると、“さん”のような敬称は違うねと。シンプルに“容疑者”でいいはずですが、“容疑者”という言葉のもつイメージが“ほぼクロ”、犯罪色が強くなってしまっている。そこで各局が独自に忖度した結果、報じられ方が割れることになります。

 今回の斉藤氏についてNHK、TBS、日テレは“メンバー”、テレ朝が“氏”、フジテレビ系は“容疑者”としていましたが、かつて暴行容疑で起訴された島田紳助さん(68)についても、当時の報道では“島田紳助タレント”“島田紳助司会者”“島田紳助容疑者”など、さまざまな呼称がつけられました」

 旧ジャニーズ以来の“メンバー”呼びとなった斉藤。鎮目氏は、「報じ方で、各局のスタンスも透けて見える」と指摘する。

「芸能人の“メンバー”呼びは当時ジャニーズタレントだった稲垣さんが発端で、事務所との話し合いによる苦肉の珍作、かつ事務所主導だったため各局不自然に一律横並びだった経緯があります。ただ今、他の報道では見ない“メンバー”をわざわざ使うと、旧ジャニーズの圧力が思い出されるだけに、逆にその局が吉本を特別扱いしている感がにおってしまいますよね」

 波紋を広げる“メンバー”呼び。異色の呼称だけに、呼べば呼ぶほど忖度感が増すのが視聴者の抱く違和感の正体だが、報道機関は今後定着させるつもりなのか――。

鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)