《ルッキズム丸出しやんけ》
《“正解”を押し付けないでほしい》

 ユニリーバ・ジャパンが展開するビューティーケアブランド「Dove(ダヴ)」が10月7日から渋谷駅に掲出している意見広告が、物議を醸している。波紋を広げる背景として、若者研究の第一人者でマーケティングアナリストとしても活躍する芝浦工業大学デザイン工学部教授の原田曜平氏は「SNS時代の広告の危うさ」と、「“こうあらねばならない”というルッキズムのパラドックス」を指摘する。

 この広告は10月11日の国際ガールズデーに合わせたキャンペーンの一環(13日まで掲出予定)で掲出されたもの。同社によれば「SNSにあふれる、画一的な美しさやカワイイの基準に異を唱える」というコンセプトのもと、『#カワイイに正解なんてない』をスローガンとする。

 そして駅構内などで貼りだされたポスターでは「美の基準にNOをつきつける」べく、前提となる「美の基準」ワードを10個が挙げられている。

《【目と目の間が4cm】離れ目かどうかを判断する基準》
《【顔の大きさ17cm】顔の大きさが17cm以下だと小顔であるという通説》
《【遠心顔/求心顔】黄金比に対して顔のパーツがずれていることを表す言葉》
《【バッカルコリドーなし】笑ったときなどに口角と歯のすき間に見える影のこと。いい笑顔の基準とされている》

……といった具合で、丁寧な解説とともにワードにはそれぞれの“気にしなくていい”部分に取り消し線が引かれている。たとえば、【遠心顔/求心顔】でいえば、“遠心”と“求心”のうえにバツ印を引くようなかたちで取り消し線が引かれている。

※画像はユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社プレスリリースより

 同社としては「NOをつきつけたい」という意図が本筋だろうが、かえって“カワイイ”の基準が可視化されたことから、SNSでは《逆効果だろ》《悩んでなかった部分がこれみて基準以下と気づき死にたくなるやつ》などと批判が殺到、炎上に発展しているのだ。

 編集部が渋谷駅で実際に広告を見た人たちに感想を聞いてみると、

「『バッカルコリドー』​という言葉を初めて知りました。わざわざ教えてくれなくていい」(女性/大学生・23歳)
「顔の大きさなんて測ったことない。気になるので、家に帰ったら測ってみます。17cmより大きかったら顔が大きいってことですよね」(女性/フリーター・24歳)
「カワイイに正解がない、って言うんだったら、一般人に訴えるんじゃなくて美容整形の病院とかに文句言ってほしいです(笑)」(女性/高校生・17歳)

 賛同よりは違和感を抱く声が圧倒的に多い。女性に限らず、男性からも「女性たちはそんなに気にしなきゃいけないのかと驚いた」(フリーター・25歳)という声が聞かれた。

撮影/編集部

 批判の認知や広告表現の意図などについて編集部がユニリーバ・ジャパンおよびキャンペーンのPR事務局を担当する代理店に問い合わせたところ、いずれも回答を拒否。

「リリースに記載のある内容以外はお答えしかねますのでご了承ください」

 と、世間の声に答えるつもりはないスタンスを示したが、前出の原田氏は「わざわざ数値や言葉として言語化する必要がどこにあったのか」と疑問を示したうえで、広告発信側と受け取り側の間にある意識の分断に言及する。

「多様性の大切さを声高に叫び、ルッキズム(外見至上主義)はよくないよねと先導するのは、そもそもそれに苦しめられてきた、あるいは『社会はこうあらねばならない』と考える大人たちですよね。社会を変えていかなきゃって大人たちは息巻くんだけど、若者からすると、それを発信されること自体が“圧”でしかない」(原田氏=以下同)