■広告には美女…ルッキズムのパラドックス

 人々に広く訴えかける駅貼り広告。「不特定多数の人の目に触れる場所で、一部SNS内での話題を取り上げるのは危うい」と原田氏は言う。

「一部のSNSで蔓延するものに意見したいからといって、企業が『こういう数値・価値観はおかしい』という姿勢を示すにあたり、慎重さは必要ですよね。今回の広告でいえば、ハッキリと明文化してしまうのではなく、いろいろな女の子が楽しそうに集っている写真を見せて空気感、雰囲気で伝えるなど、他に方法はあったかなと思います」

 昨今は学校で多様性についての教育も取り入れられているが、原田氏は、「“こうあらねばならない”というルッキズムのパラドックス」を指摘する。

「大人たちは、“今の若者は多様性にも理解がある”と思うかもしれませんが、自分ごとになると全然そんなことはなく、むしろルッキズム全開です。かわいく整形したいし、マッチングアプリではイケメンからモテる。インスタに上げる写真を加工するのも、結局ルッキズムだからですよね。どれだけ大人が多様性といっても、結局若者の間では同じものが流行ります。

 キャンペーンはそうした流れに警鐘を鳴らしたいという意図ですが、本来価値観とは、ぼんやり受け入れ合いながら醸成されていくもの。それなのに、『それは良くない、こうあらねばならない』と、多様性の名の下に細かく分断してしまうと息苦しい。いくらルッキズムはよくないといっても、実際の広告にはビジュアルのよいモデルが起用されるわけで、そのパラドックスにモヤモヤする人は多いでしょう」

 とはいえ炎上を招きながら、改めて”美の基準”の存在について考えさせられた人も多かったことがうかがえるDoveの広告。そう捉えると、結果的に一定の意義はあったのかもしれない。

原田曜平
慶應義塾大学商学部卒業後、広告業界で各種マーケティング業務を経験し、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般。 2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、様々な流行語を作り出している。主な著書に「寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生(角川新書)」「Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?(光文社新書)」など。