■変わった子を描いた傑作漫画
■『GOGOモンスター』(松本大洋/小学館)
「450ページの全編描き下ろしで、最初に発売されたときは豪華ケースに入っていた作品です。
『鉄コン筋クリート』(小学館)や『ピンポン』(小学館)で有名な松本大洋ですが、そのあとに出た『GOGOモンスター』でアーティスティックな面が極まったところがあります。単なる消費される娯楽としての漫画ではありません。ストーリーは小学3年生の男の子が少しずつ大人になるというだけで、その過渡期の心理を丁寧に描写したのが特徴です。話を追うというよりは、作品性に重きを置いており、読者は物語の世界観に分け入っていくように没入するしかないんです。主人公は、独特の感性を持っていて、周囲とは違うものが見えてしまう。そういう子って、いつの時代にもいるものじゃないですか。だけど本書発売当時は、主人公の様な子は“変わった子”と一蹴されていた。だからか、マジョリティの間だけでデザインされた社会の中で浮いてしまう傾向があった。そんな男の子が、どうやって世界と折り合いをつけていくのか……。普遍性を持ちつつも、間違いなく時代を先取りしていた漫画だと思います」(倉本氏)
■打ち切りだけど面白い藤崎竜作品
■『PSYCHO+』(藤崎竜/集英社)
「単行本だと2巻ですが、文庫本だと1巻で完結している作品です。藤崎竜は『週刊少年ジャンプ』の『封神演義』で超人気作家となるわけですが、『PSYCHO+』はその前の段階で『ジャンプ』に連載されていました。ところが、こちらは残念ながら打ち切りの憂き目にあっています。作品のモチーフとしてあるのは”超能力”と”携帯ゲーム”。90年代の『ジャンプ』といったら『SLAM DUNK』(井上雄彦)や『ドラゴンボール』(鳥山明)といったバトル漫画の全盛期ですから、かなり独特な存在感を示していたと思います。個人的に印象的だったのは、主人公の髪色が緑ということで周囲から遠巻きにされる場面です。今の時代になって“多様性”という言葉がやたら使われるようになりましたが、そういった微妙な感性を少年漫画の中で表現していたのは画期的でした。作家性の発露を随所に見ることができる名作です」(倉本氏)