「あの女優はいったい、誰なのだろう?」――2024年9月、筆者が舞台『女医レイカ2』(劇場:新宿シアターモリエール)を観劇中、ある1人の女優に目を奪われた。笑顔を見せない「アイスドール」と呼ばれる女医という難しい役柄を見事に演じきっていたからだ。

 パンフレットを広げ、女優の名前を見る。

 すると、見覚えのある名前が目に飛び込んできた。

『NHKニュース7』の元お天気キャスターで、その出演時間から「7時28分の恋人」と呼ばれ人気を集めていた、気象予報士の半井小絵(なからい・さえ)さん。

 ふんわりとした優しい雰囲気でニュースを伝えていくその姿は、視聴者の特に男性ファンを魅了し、2006年には『NHK紅白歌合戦』に出演するなど、その人気はすさまじいものだった。

 彼女はなぜ、気象予報士から女優に転身したのか――。筆者はその理由が知りたくなり、本人に取材を申し込んだ。

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半井小絵さん  撮影/小島愛子

「先日は、舞台を観に来てくださりありがとうございました」

 インタビューに応じてくれた半井さんは開口一番、筆者に対して優しい笑顔で語りかけてくれた。その表情は、女優として舞台に上がっていた時のものとはまるで違い、朗らかでにこやかな雰囲気だ。

 2004年から2011年まで『NHKニュース7』で気象情報を担当していた半井さんは、番組を卒業後の現在は、気象や防災について講演活動をしながら女優として活動している。

 まずは、気象予報士となったきっかけから話してもらった。

「大学卒業後は日本銀行に勤めていたんです。銀行の仕事もやりがいがあり充実していましたが、秘書などをしていたので、いわゆる金融のプロではなかったんです。周りにいるプロの方を見た時、“何か一つ、自分も資格がほしい”と考えていました。

 気象予報士を目指したきっかけは、母方の祖母でした。祖母はとても天気に敏感で、私も子どもの頃から毎日、祖母と天気予報を見ていたんです。

 なぜ祖母が天気に興味をもっていたかというと、これは悲しい理由なんですが、昭和9年に室戸台風の被害があり、祖母の学校では41名もの児童が校舎の下敷きになって亡くなってしまったんです。

 2階の屋根の隙間にいた祖母はかろうじて助かったのですが、それがトラウマになり、天気を気にするようになったそうです。当時は雷雨になったら家の中に閉じこもり、電気を消して雨戸とカーテンを閉めて、“雷は高いところに落ちるから”と、部屋の真ん中に寝転ぶほどでした。私はおばあちゃん子だったから、雷が鳴ると一緒に寝転がって、稲光から落雷するまでの秒数を数えて、近くか遠くかの距離を確認していました」(半井さん、以下同)