北海道で“野犬”による被害が拡大しているのをご存じだろうか。特にこの1年間に限っては、昨年6月に別海町の牧場で放牧中の牛78頭が野犬集団に急襲され、4頭が殺される事件が発生。10月にも牛2頭が目の上をかじられるなど重傷を負った。

 ほかにも動けなくなったシカが野犬2匹によって一方的に攻撃される様子が目撃されるなど、その凶暴性はとどまるところを知らない。

 元々ヒグマによる被害が多発していた同地区だが、現在は野犬被害も増加。地元住民は「まるで漫画『銀牙 ―流れ星 銀―』の世界だ」と恐れおののくばかりだという。

 旭山動物園の元園長で、札幌市円山動物園参与の小菅正夫氏に話を聞いたところ、意外な点から解説をしてくれた。

 それが、「そもそも野犬(やけん)と野良犬(のらいぬ)は違う」ということだ。

「少し紛らわしいのですが、環境庁の指定で、野犬は“ノイヌ”と呼ばれているんですね。これは人里離れた自然の中で野生化し、狩りをしながら生活をする犬のことを指します。一方で野良犬は主に都市部を徘徊し、ゴミを漁ったり、人から残飯をもらったりしている。もっともその区別は曖昧で、野良犬はいつでもノイヌ化する恐れがあるのですが……」(小菅氏=以下同)

 つまり、現在北海道で起きている被害は、野犬によるものということ。確かに、街中で野良犬を見かける機会はめっきり減ったように思う。これは保健所などが積極的に保護活動を推進し、1980~2000年代には殺処分も徹底して行ったためだとされている。

 しかし、ここに来て野犬の被害が増えているのはどういうことなのか? そこには“無責任な飼い主が飼育放棄して野に放つ”というケース以外の原因もあるようだ。

「本来、狂犬病予防法によって犬は繋いで飼わなくはいけません。でも田舎だと、放し飼いにされていることも実際はよくあるんです。放し飼いされている犬が子供を産んで育てていく過程で、どうしても“群れ化”してしまう。それでも人のところに戻ってくればいいんですけど、群れの状態のまま、人の飼育から離れ、自立を選択されてしまうと、もはや手に負えなくなってしまうんですよ」