■野犬となった犬が凶暴な理由
この問題には“群れをなす”という犬の行動原理が深く関わってくる。冷静に考えれば、1対1のタイマン勝負なら、巨大な牛が犬に負けるはずはない。しかし野犬は集団の分業制で狩りを行うため、より殺傷能力が増すのだという。
「犬に関してはこれまで“祖先がオオカミなのか、コヨーテなのか、ジャッカルなのか?”という議論が交わされてきたんです。ただ、DNAの研究が進んだ結果、近年はオオカミということで結論が出ています。オオカミは習性として必ず集団で行動する。“一匹狼”なんて現実には存在しないんです。犬も分類学上はオオカミの直系ですから、当然、群れをなして生きようとするわけです」
一方で、現在問題となっている、群れをなした野犬への対策は、あるのだろうか。その解決方法は、“全頭捕獲”しかないと小菅氏は断言する。
かつて北海道で農作物を荒らすなどの被害を生んでいたエゾオオカミを絶滅させた際も、全頭を薬物で毒殺、もしくは銃殺したという。現在、保護犬に対しては“殺処分ゼロ運動”が進められているため、むやみに殺すということはないかもしれないが、放置されていたら被害は拡大するばかりだ。
「実は、野犬が問題化しているのは北海道に限った話ではないんです。山口県でも公園が野犬に占拠されたと問題になったし、茨城県でも野犬は急増しているといいます。今は牛やシカが襲われていることで騒がれていますが、もし人間が襲われたらどうなるか? 野犬は飼い犬と違って狂犬病の予防注射が接種されていない。日本は狂犬病が蔓延していない珍しい国ですが、これが広まったら大変なことになるでしょう」
中には善意で餌を与える人もいるというが、野犬を増長させると取り返しがつかない事態になりかねない。行政の早急な対策が待たれるところだ。
小菅正夫
こすげ・まさお
1948年、北海道札幌市出身。1973年、北海道大学獣医学部卒業後、獣医師・飼育係として旭川市旭山動物園に就職すると、飼育係長、副園長などを歴任し、1995年には園長に就任。現在は、現在は札幌市環境局参与として円山動物園を担当している。