■10年前から…炎上に積極的に参加するのは「40~50代以上の男性」

 また、22年に『弁護士ドットコム』が実施した調査でも、「ネット上で誹謗中傷したことがある」と答えた人のうち、最も割合が多かったのが“50代男性”(22.4%)だったとの結果も出ている。前出のデジタル・クライシス総合研究所の桑江氏が補足する。

「10年前から傾向は変わっていないと考えられます。リツイート、リポストなどで炎上を拡散させる人はもっと若いこともありますが、実際にテキストにして炎上に参加するような人は40代、50代の方が多いというのが、炎上を分析している私の印象としてもありますね」(桑江氏=以下同)

 実はピーク時に比べて炎上件数自体は減少傾向にあるのだが、ここ数年、ネット炎上の“質”も変わってきているという。

「19年から24年のネット炎上を分析した結果、コロナ禍の21年が最多の1766件でしたが、24年は1225件で、過去6年ではもっとも落ち着いた年でした。でもそんな印象はあまりないですよね。それは、ひとつひとつの炎上の“熱量”が高くなっているからもしれません」

 個々の炎上案件が拡散されやすくなっていることが、“炎上の熱量”を高めるのだという。

「最近ではネットメディアやテレビも炎上を取り上げることが多いですし、Xの仕様変更でおすすめの欄などにこうした騒動のポストが出てくるようになり、目に付く機会が増えています。知らなければ文句を言うこともありませんから、炎上騒動が目につきやすくなったことで、実際の件数は減っていても、物申したくなる人は増えているのでは」

 一方、炎上件数の減少については、ネット炎上に対する世間の受け止め方が変化しはじめているからではとも分析する。不祥事を起こしたタレントが出演する番組のスポンサーの商品に対し“不買運動”を起こすといった動きも以前はよくみられたが、

「キャンセルカルチャーが強まるなかで、“これは本当に批判されるべきか?”と考えられるようにもなってきた印象です。たとえば俳優の吉沢亮さん(30)の泥酔騒動がありましたが、お酒絡みのトラブルということでアサヒビールのCM契約打ち切りは妥当だとしても、アイリスオーヤマは契約継続決定を発表し、この決断を評価する声も多かったですよね。

 キャンセルの空気に対し、こうした態度が以前に比べて世間に受け止められやすくなった印象です。いわゆる“カスハラ”に対しても、企業側がただ平謝りするのではなく、ちゃんと一線を引いて、これ以上は容認できないというきっぱりとした態度を取ることが評価されるような風潮になってきています。炎上件数が減ったのには、そうした変化も影響しているのではないでしょうか」

 国内でSNSが普及するようになってすでに10年以上。“炎上文化”も過渡期にあるのかもしれない。

桑江 令
シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。
デジタル・クライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組出演や、出版社でのコラム執筆、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。
一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。