■“きょうだいゲンカ”動画がメンタルに及ぼす影響は

 SNSでは“虐待”といった指摘もあったが、実際、こうした動画を撮影・公開することがまだ6歳である乃々佳ちゃんのメンタルに影響を及ぼす可能性はあるのだろうか。

 首都圏と関西圏に12院ある「ゆうメンタルクリニック」グループ総院長のゆうきゆう医師は、まず“虐待ではないか”という指摘に関しては「虐待にも様々なパターンがありますので、何が虐待かの断定は難しいですが、本人が苦痛を感じているのなら、配慮は必要だと考えます」と見解を述べる。

 また、「ケンカをしている状態であれば止めるのが理想だったとは思いますし、またそうした状態を動画で公開するのはあまり良くないかもなぁ、とは考えます」と話す。

「姉にとって“話を聞いてくれない”“自分の気持ちを理解してくれない”という点がネガティブに感じられる部分があるかもしれません。またケンカをしている状況を動画として公開されることは、本人にとって不快ではあるかもしれません。

 というのも、そもそも心理学的に、人間には『自分だけの空間や世界や人間関係』が重要であるとされています。たとえば、『家族との人間関係』『部活での人間関係』『バイト先の人間関係』など、それぞれ独立した人間関係を持っている人の方が、精神的に健康でいられます。ある集団でのグチを他の人に話す、といった方法で発散することができるからです」(ゆうき医師=以下同)

 ゆうき医師によれば、家庭内で起こっていることを動画で広く公開する行為は、この“自分だけの世界”が保たれにくくなるリスクがあるというのだ。

「本人にとって、『家族だけの人間関係』と『世界での人間関係』が独立せず、つながってしまっているような状態になります。すると本人だけが安らげる、『秘密を話しても誰とも共有されない』ような空間が持ちづらくなります。

 もちろん動画として出す・出さないは選んでいるかもしれませんが、生活行動全般が動画として世界に配信されているのは、本人にとっての安らぎが少ないのでは、と思います。大人が自分で公開しているのとは違いますので……」

 今は子育て動画や、子どもを“主役”にした動画も多い。実際に編集・投稿する親として気をつけたいポイントは何か。

「すべてを出さず、子どもであっても“今のシーンを出していい?”“出してほしくないところ、ある?”などと聞いてあげるのが良いのではないのかな、と思います。それによって本人は“自分だけの世界が保たれているんだ”“お母さんとの世界は、世界中とは独立しているんだ”と安らいで育つことができます」

 今や登録者数50万人超えと大人気の「ののチャンネル」。乃々佳ちゃん・日那乃ちゃん姉妹の成長を見守る大人が増えているからこそ、さまざまな議論に発展しているのだろう。

ゆうきゆう
精神科医・マンガ原作者。
ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニックグループ総院長。
東京大学医学部卒業。医師業のかたわら心理学系サイトの運営、書籍執筆なども手がける。
シリーズ累計三〇〇万部を超える『マンガでわかる心療内科』(少年画報社)やJam氏との共著『マンガ版 ちょっとだけ・こっそり・素早く「言い返す」技術』(三笠書房)などマンガ原作、著書が多数ある。
ゆうきゆう公式HP:https://sinri.net/
ゆうきゆうXアカウント:https://x.com/sinrinet
ゆうメンタルクリニック:https://yuik.net
ゆうスキンクリニック:https://yubt.net