■『おむすび』はコロナ禍をどう描くのか
“スコッチエッグの失敗”とは、結が社員食堂の栄養士だったとき、定食の作業工程を考えずに時間内に調理して提供できなかったこと。指摘の通り、結は朝ドラのヒロインには珍しく、“過去の経験に学んで成長していく”という王道パターンから外れた行動を繰り返してきた。
また、5日の108回放送後、《今日は、「患者のために」「子供のために」「良かれと思って」頑張ってる結がうまくいかなくて悩む回だった。誰もが通る道だけど、大抵の人は弱い立場の相手を”躾け”と称して屈服させて、見かけ上の解決をしがち。(相手の心は離れていく)結はどうやって成長していくのか見守ろう》という声もあった。“過去の経験に学んで成長していく”よりも、悩み、頑張ることこそが結の魅力なのかもしれない。ギャルの掟である「他人の目は気にしない。自分が好きなことは貫け」を、かたくなに守っている、というのもあるだろう。
ただ、最終月で気になることがある。3月7日放送の110回のラストで、2020年2月、横浜に停泊中のクルーズ船から新型コロナウイルスが確認されたことが描かれたことだ。コロナ禍は現在と時間的に近く、さらに全世界的に経験した災禍であることもあり、見る側にとってかなりデリケートなトピックだ。
この緊張感ある終盤に来て、結の学ばないパターンがまたもや展開されるとなると、弁当開発の失敗どころではない、相当のストレスを見る側に与えるのではないだろうか。7日に流れた次週予告では結が病院を辞めることを思わせるシーンが流れていたが、当時、混乱の只中にあった医療施設を辞めて、なにをするのだろうか? それによっては視聴者の不満が爆発する可能性がある。
ただ、神戸の震災の描写は、背景に映り込んでいる人々など、当時の様子をリアルに再現していたと高い評価を受けていた『おむすび』だけに、 制作側はコロナ禍も慎重に描くはずだ。視聴者から不満が出ることなく、結が“食”によって、コロナ禍を乗り切る見事なラストが描かれるかもしれない。残りの週に注目したい。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。