■2億円トイレの「内訳」を試算すると…
少しずつベールを脱ぎ始めた「2億円トイレ」。実際X上には、約1.7億円で受注したという工務店の契約書も流出しているが、この金額は妥当なのか。前出の森山氏がXに投稿した画像を元に試算してもらった。
「写真を見る限り3つの便器が3セット、2つの便器が1セットで、11便器。これが3セット並んでいるようです。つまり個室トイレは33個です。
トイレの便器の価格は、一般的に安いタイプが10万円で、自動洗浄など高級品で30万円ぐらい。平均して20万円だとします。取り付け費用が10万円、配管工事や電気工事が10万円ずつ、さらに照明器具やドアなどで10万円くらいでしょうから、諸々で合計60万円ぐらいになります。60万円が33個室なので、トイレを導入するだけで約2000万円という計算になります。
次に建物に関してですが、この場合、床は30メートル角ぐらいのコンクリートの上に赤・青・黄の鉄骨の箱が載っている構成ですね。コンクリートが1000平米基礎込みで5000万円くらい、鉄骨の箱が100万円が4つに屋根の箱が300万ぐらいだとして、計700万円が3セットで2100万円。5000万円+2100万円にその他の素材や塗装を加えると、ざっと材料費で8000万円ほどになるかと思います。
建築素材が8000万円、トイレ素材が2000万円で約1億円。通常、建築工事費は素材で3割~4割(今回の場合、建築素材+トイレ素材で計1億円)、人件費で5割~6割、届け出などの諸経費で1割、そこに工事利益で2割としたいところです。ただこのトイレは、工場で作成し、現地に運んで組み立てる方式で人件費を絞っていると思いますので、1.7億円でできたのなら頑張っているほうだと思います。多めに考えて3億、少なく見積もって1億5000万円くらいでしょう。あくまで33基のトイレ分として、ですが」
これだけのリソースと費用がつぎ込まれたデザイナーズトイレともなれば、万博終了後も活用したいところだが、その現実味はどうか。
「この写真で見る限り、ホームセンターなどどこでも入手できる素材なので、わざわざ万博後にどこかで使う必要あるのか? ということになると思います。
同時に波板は薄い鉄板で、傷やヘコミを受けやすいため、運んで取り付ける方がお金もかかります。どうしても万博で使われたトイレを移築したい、という行政や民間企業が出て来るといいですが、もしどこかで再生するのならば、鋼材として廃棄しリサイクル業者に売ったほうがよいかもしれません」(前同)
実物の「2億円トイレ」を見たいという人で、トイレ自体は賑わうかもしれない。
森山高至(もりやま・たかし)
1965年岡山県生まれ。一級建築士、建築エコノミスト。
早稲田大学理工学部卒業後、設計事務所を経て、同大学政治経済学部大学院修了。
地方自治体主導の街づくりや公共施設のコンサルティングを行いながら、ジャーナリストとしても活躍。
ポップカルチャーの視点を交えて建築を分かりやすく解説することを得意とし、著書に『マンガ建築考』(技術評論社)、『もし女子高生が家を設計したら』(マンガ原案、エクスナレッジ)、『費用・技術から読みとく巨大建造物の世界史』(監修、実業之日本社)などがある。