■好きな気持ちがすれ違ってしまう空豆と音

 空豆は信頼していた久遠に軽く土下座をされ、スタッフにこれが当たり前だと言われても、受け入れるのは困難だろう。こんなときに話を聞いてほしいと思う人は、誰でもない音だった。

 だけど、いくら電話をしても音は出ない。一緒にいるだろうとセイラ(田辺桃子/23)に電話をすると、音は別の部屋で打合せ中だという。たまらずユニバースレコードのスタジオまで来た空豆は、思いもしない光景を目にすることになる。

 音とセイラが抱き合っていたのだ。でもこれは、2人が特別な関係ではないことは明白だ。なぜなら、セイラは空豆に特別な感情を持っていて、空豆の同僚の男性の存在を気にしていたり、写真フォルダに空豆の写真だけまとめている様子が描かれている。

 そして今、電話の向こうで泣いている空豆の力になりたいのに、それは自分ではないことにひどくショックを受けてしまう。音は、ただセイラを優しく慰めていたのだろうと推測するが、それを空豆は知らない。抱き合う音とセイラに驚いて、スタジオを飛び出す空豆。だけど、雪が降る寒い夜、傘もささずひとり泣き崩れる自分を抱きしめてくれる人はいないのだ。

 充実していた仕事に失望し、大切な音を失ったと絶望的になる空豆。デザイナーとして駆け出しの空豆が、持って生まれた才能を伸ばして成功させていくには、その世界で成功した大人の力添えが必要になる。もう久遠のところで仕事をすることはできない、と思うのか。このままアンダーソニアのデザイナーとして、着々と結果を出し続けてチャンスをうかがうべきか。

 それは、空豆が決めることだが、隣に音がいてくれたらどれだけ心強いだろう。このまますれ違ったままだなんて、悲しすぎる。(文・青石 爽)