鹿乃つのさんが現地で実際に言われたこと

――炎上ではなく、コスプレについて考える良い機会だということですか?

「そうですね。コスプレ界隈の『因習』と今呼ばれ始めている暗黙のルールの扱いだったり。ひいては二次創作の権利問題や、万博コスプレが起こしうる国際問題をどう懸念し対していくのか。そういう議題を浮かび上がらせることに繋がったと思います」

――仮面や武器が安全の観点から万博にふさわしくないのは分かるのですが、具体的に何か“良くない”と思ったコスプレはありましたか?

「当日にいたわけではないですけど、露出が多いコスプレや、戦争を扱う漫画の格好とかは危ういかな、と。私もそこまで多くの作品にも、宗教観などに詳しいわけではないので、どこまでが許されるのかは未知数です。

 適切な裁量を持てない人が来る可能性が見えてきたら、ルールを変えるのは必要な事だと思います。“お前のせいでルールが変わったらどうしてくれる”みたいなメッセージも来ていますけど、変わるんだとしたら、それは必然ですから」

――実際、コスプレで万博を訪れた当日の周囲の反応はどんなものでしたでしょうか?

「すれ違う修学旅行の子たちが“え!”と喜んでくれていたり、“エルフ? かわいいわね”と老夫婦が話しかけてくれたり、“あなたがこのパビリオンを訪れた最初のエルフさ!”と海外の方が喜んでくれたり。老若男女、国籍問わず来場者の方々に“一緒に写真撮ってください”と言っていただけました。

 それこそ万博っていろいろな国や人種の方々が集まりますけれど、その1つの人種として“エルフ”が遊びに来ているという光景にも見えたのかもしれないと。反応を聞いていて、そう思いました」

――今回の件はコスプレ界に一石を投じるような出来事にも感じられますが、これからのコスプレ界について思うところはありますか?

「昔からコスプレの世界は、暗黙のルールが多くて、“村の因習”みたいになってしまっている感じがするんです。ルールを破ると追放される、みたいな。

 でも今回、こうして対立構造ができたことで、“村の因習”を守る人と、それがおかしいと思う層という構図が見えてきたのではと。コスプレ文化を良い方に変えられる転機なのではと思っています。

 作品や文化、研究……人間がつくりあげたそれらは、いつか必ず人を助け、驚かせ、感激させ、そしてまた新しいものを生むことに繋がっていきます。だからそういったものを守り育むための土壌を作るために、私の寿命を費やしたいというのが、ここ数年の私の願いでした。そうすれば、私への好き嫌いや時空をこえて、人々や子孫を幸せにすることができるから。

 その守りたいものの筆頭が、今はコスプレ文化をはじめとする二次創作文化です。インスピレーションやモチベーションの、大きな源泉の一つです。挑戦したい人を暖かく迎え入れ、スタイルの違いを認め合い、萎縮せず安心してコスプレを楽しめる土壌をつくるために、この大論争は非常に重要な機会となりました。

 これを炎上や事件ととらえず、万博がつくってくれた歴史に残る素晴らしい議論の場だととらえて、あらためてこの騒動を見つめてみてほしいです。そして、ひとりひとりが本当の意味で輝ける未来のデザインを考えましょう。できない理由ではなくやれる方法を、みんなで一緒に考えましょう」

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 大阪・関西万博で勃発したコスプレを巡る論争は、果たして、今後どんな展開を見せるだろうか――。

鹿乃つの(しかの・つの)
北海道出身。
“表情筋にめぐまれたコスプレ好き社会人”として、漫画『ダンジョン飯』(KADOKAWA)のエルフのキャラクターであるマルシル・ドナトーのコスプレをメインに活動。
 2025年3月に行なわれた世界最大級のアニメイベント「AnimeJapan 2025」での姿がメディアに取り上げられ話題となったり、YouTube番組「アキバログイン」に出演するなど、活動の場を広げてい
る。