■『ウルトラマンZ』を通じて「すごい責任感が生まれた」

――言われて初めて、挫折に気づいたんですね。
平野 兄は高校で特待生としてスカウトされていて、そんな姿を見ていたから僕も当たり前のように同じ道を歩むだろうなと思っていたのに。いろいろと複雑な感情が涙と一緒にあふれましたね。ただ、やめたことで寝れるじゃないですか。
――もう練習のために早朝起きなくていいんですもんね。
平野 そうです。その後、土日は1日中ずっと寝てたんですよ。そしたらそこから急に身長が伸びて、いま183cmあるんですけど、160cmから20cmくらい伸びて、睡眠って大事だな! とすごく思いました。
――身長を気にしてやめたとたんに……! 睡眠で成長ホルモンが促されたんですね。
平野 寝てるとき、骨が鳴る音がするんですよ。ボキボキ聞こえるんですよ。そんな状態で、起こされなければ丸々24時間寝たりしていました。「生きてる!?」みたいに心配で起こされたこともあります。毎日毎日、いくら寝ても眠いんですよ。
――緊張感が解けたのもあるんでしょうか。
平野 そうなんですかね。それで身長が伸びたおかげで、僕はちょっとぽちゃぽちゃしていたんですが、シュッと見えるようになって。父が通っていた洋服屋さんがあって、そのお店の社長さんは、今、僕が所属しているサンミュージック所属の芸人さんだったんです。
その方から、「芸能、絶対向いていると思うよ。やったほうがいいよ」と紹介していただき、当時高校生で、事務所に連れていってもらいました。僕は軽い気持ちでついていったんですよ。本当に入れるなんて思ってないし、学校終わりで制服のままで。そしたら、10人以上の大人がいてカメラ2台向けられて、急に面接が始まったんです。
――そんなに本格的だとは聞いてないよ、と。
平野 大人たちはみんなムッとしてるように見えて、高校生にとってはすごく怖かったです。「なぜ芸能界に入りたいと思ったんですか?」と聞かれて、いやいや誘われたからですよ……と内心思いつつ、当時サンミュージックにはベッキーさんが所属していたので「ベッキーさんに会いたいんです!」と答えて。
――がんばって考えたんですね。
平野 でもなんだかそれがウケたのか、アホだと思われたのかわかりませんが、それで所属ということになりまして。
――その後、ドラマデビューは2017年で、2020年には『ウルトラマンZ』で主演に抜擢されました。
平野 その頃なんですよ、それまで見るのも大嫌いになっていた野球を、純粋に見て楽しめるようになっていたのは。
――なぜでしょう。
平野 芸能活動を始めた当初は軽い気持ちで「有名になれたら」という感じでしたが、『ウルトラマンZ』が決まり、「ドラマってこんなに多くの大人が関わってひとつの作品ができているんだな」ということを感じて、すごい責任感が生まれたんです。それから、俳優として素敵なスタッフさんとともに一緒に作品を作りたい、という気持ちを持つようになりました。
ただそれ以降、自分が思い描いていた想像よりも仕事量が多くなくて、コロナ禍ということもあり思うように活動できなくて、「どこかで区切りをつけたほうがいいのかな」とふと思ったこともありましたね……。
――芸能活動をやめることがよぎっていたんですね。
平野 でも、野球を途中でやめたことがずっと引っかかっていたので「途中でやめること、逃げることはもうしたくない」という思いが強くあって、さらに「やめても僕にできることはほかにないな」と思って。いまは「この仕事をやりきろう」という思いになりました。
ありがたいことに、近年は多くのお仕事をさせていただける機会を作っていただいて、去年は『世界・ふしぎ発見』(2024年11月9日放送回、TBS系)でペルーに行ったり、お芝居以外にもいろいろな経験をさせていただけ、「皆さんと一緒にいい番組にしたい」と思うようになりました。作る側の感覚になってきたのかなと思います。