■炬太郎の優しさに包まれて泣いたエリー

 ちょっと面倒に思いつつも、ちゃんと話を聞いてあげる炬太郎は、やっぱり優しい人だ。ふだんは仕事をバリバリこなして、身のこなしも軽やかなエリーがこんなに酔ってしまうなんて、よほどのことなのだ。

 元夫とのことに手伝えることは何もないけれど、せめて今のつらい気持ちに寄り添ってあげたいと思ったのだろう。エリーが、かつて猫のエリザベスだったとき、なかなか懐いてくれないことに苛立った炬太郎が罵声をぶつけたことがあった。だけど本当は、ぎゅっと抱きしめたり頭をなでたりしたかったのだ。

「頑張れ、頑張れ。エリーさん、頑張れ」と背中に顔を寄せて伝えてくる炬太郎の声が優しくて、あったかい。華奢なエリーの肩に添えた手が大きくて、背中からすっぽりと包まれた感覚がじんわり伝わってくる。

 エリーは酔いつぶれているように見えていたが、本当はぜんぶ聞いていて、炬太郎の優しさにうっすらと涙が溢れてくる。だけど、やっぱり猫だからこんなときも素直になれず、「キモイ! ウザ! どけ! 帰る!」とツンデレが発動してしまう。

 そんなエリーをかわいいと思って、大事にしてくれる人がきっといるはずだ。
いつか、炬太郎の優しさを感じたエリーと、エリーのつらい思いを知って受け止めた炬太郎は、すてきなビジネスパートナーになれる日が来るだろう。エリーが出した手に、炬太郎が反射的に“お手”をしてしまったように、阿吽の呼吸でバリバリ仕事をする日が来てほしい。(文・青石 爽)