■主婦あるあるで終わらない『対岸の家事』
同じく共感の声が多いのが、多部未華子(36)主演の『対岸の家事』だ。朱野帰子氏のお仕事小説『対岸の家事』(講談社文庫)が原作で、専業主婦・村上詩穂(多部)が、異なる立場や考え方を持つ“対岸にいる人たち”との交流を通して、家事という終わりなき仕事を描く物語。主婦“あるある”のドラマに見えるが、その先の問題にしっかり踏み込んでいる。
専業主婦、共働きのママ、育休中のパパなど、それぞれの育児の問題を提示して、子育て経験のある視聴者に「グサグサ刺さる」などと支持されている本作。そこからさらに深堀りし、離れて暮らす親の認知症の問題なども出てきて、主婦以外にも響くテーマが盛り込まれてきた。
それが解像度高く描かれているため、X上では、《専業主婦もワーママも、どちらも自分とは縁遠くて、でも社会の一員として、このドラマを観てきたけれど、今回は認知症とか出て来て、急に他人事ではなくなってきた。どこまで話題を拡げるのかな》などと、主婦以外の層の支持を得ている。
2作はどちらも殺人事件や悪辣な詐欺など、大きな事件は起きない、いわゆる日常系のドラマだ。しかし、描く内容を令和仕様にアップデートしていて、登場人物が抱える“もやもや”をしっかり可視化する解像度の高さがあり、多くの共感の声を集めている。違うテーマを扱いながらも、実は春ドラマの2強は似た作品なのだ。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。