■元キー局Pが解説する“大手事務所消滅の影響”
BL作品の同性カップルは、“攻め”と“受け”が明確に分けられている。“攻め”は、男女の恋愛で言えば男性側、“受け”が女性側に該当する。
「受け側が攻め側に惹かれていく流れ、逆に受け側の魅力を攻め側が知っていく流れ。男女の恋愛に比べて、こういったシチュエーションに自己投影しやすいそうなんです。
また、BLドラマには激しいベッドシーンなどをイメージする人もいますが、実際には真逆で、とても見やすい作りになっているんですよね」(前出の制作会社関係者)
女性視聴者には“美しい恋愛”が見たいというニーズがあり、生々しくハードなシーンは望んでいないとも言われる。そのため、ベッドシーンがあったとしても“事後”の様子がある程度だという。
「BLドラマでは、キスもディープキスではなく唇をハムハムする優しいキスなんです。加えて、BLドラマの世界には“毛”が存在しません。俳優陣には徹底して脱毛、剃毛をしてもらうといい、全身ツルツルで清潔感があるんです。
そうしたことで、良い意味で現実味が薄れて、完全なファンタジーとして“美しい男性同士の美しい恋愛”が楽しめるんです。現実がチラつかないからこそ、自分が投影できるのかもしれませんね」
そのように綿密に作り上げられた日本のBLドラマには多くの需要があり、中国やタイなどアジア各国での人気も狙えるというわけだ。
一大産業となっている感もあるBLドラマだが、元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏は、「旧ジャニーズ事務所の消滅も、BLドラマの流行に影響を与えているようです」と語る。
「旧ジャニーズ事務所は一連の問題で2023年10月に消滅しましたよね。それにより同事務所への忖度が消滅した結果、テレビ局は他事務所の“若いイケメン俳優”を気兼ねなくドラマにキャスティングできるようになったんです。市場に多くのイケメン俳優が増えたから、これまでよりもBLドラマを作りやすくなったんですよ。
加えて、韓国ブームの影響もありメンズファッションや整形など、きれいな男性に対する需要が高まっていますよね。女性はきれいな同性より、きれいな男性に感情移入しやすといい、これもBLブームに影響しているところはありそうです」(鎮目氏、以下同)
さらにドラマの企画・脚本の観点から見ても、「BLドラマは制作しやすい」と鎮目氏は言う。
「すでに男女の恋愛ドラマは描き尽くされた感があり、目新しいものは作りにくいですよね。それと比べると、これまでテレビであまりやってこなかったBLドラマは新鮮味があります。
またBLものは原作となる漫画市場が大きいし、参考資料として、BL作品大国であるタイの作品も数多くある。参考にできる元ネタが豊富にあるため、そういう意味でも作りやすいんですよね」
昨年4月、日本のBL作品も多く配信されている台湾のLGBTQ動画メディア『GagaOOLala(ガガウララ)』の運営者、ジェイ・リン氏は、日本のBL作品は漫画出版社、配信事業者、テレビ局が一体となっていることから「年間17億ドルを生み出す」と、圧倒的な経済効果を語り、『ガガウララ』では「総視聴時間ランキングではアメリカ、タイ、台湾、イギリス、ドイツ、オーストラリアが上位6位を占めています」と、日本のBLドラマの海外人気も説明していた。
海外需要も増しているBLドラマ市場。日本のテレビ各局は今後さらに、BLドラマに力を入れていきそうだ。
鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)