■阿部サダヲの泣ける演技が話題に

 また、『あんぱん』キャストでは、のぶ(今田)の妹・蘭子役の河合優実(24)が大きな存在感を放ち、大注目を集めている。彼女との出会いについて、前述の『スポニチアネックス』インタビューで倉崎チーフプロデューサーは、23年12月に行なわれた『あんぱん』ヒロインオーディションを振り返り、《良い意味で“バケモノ”に出会った》と、オファーのきっかけを語っている。

 嵩(北村)の母・登美子役には松嶋菜々子(51)が起用されているが、彼女にも倉崎チーフプロデューサーは、強い思いを感じさせるコメントをしている。《中園ミホさんとはかなり早い段階から、この役はどうしても松嶋菜々子さんにやっていただきたいと一緒に願ってきました》と、自身のXに投稿しているのだ。

 そんな松嶋は6月6日放送回では、出征する嵩に泣きながら「逃げ回ってもいい! 卑怯と思われてもいい! 死んだら駄目よ。生きて帰ってきなさい!」と訴えかける名演技を見せてくれた。ここまでは”毒親”として描かれていた登美子だったが、根はしっかりと”母親”だったことに視聴者は涙。《松嶋菜々子がただの絶妙に嫌な女のまま終わるわけなかった》《毒親キャラから一転、松嶋菜々子さまの名演技に全ワシが号泣》といった声が多く寄せられている。

「河合さん演じる蘭子は、序盤から“色気が凄い”と注目されていましたよね。物語が進み、結婚の約束をしていた青年・原豪(細田佳央太/23)の戦死の報せを受けてからの演技も凄かった。葬式での慟哭、戦争を嫌うようになるまでの流れは、朝から多くの視聴者を泣かせましたよね……」(前出の女性誌編集者)

 また、阿部演じる草吉は “軍のための乾パンづくりに協力はできない”という理由から放浪の旅に出てしまったが、その背景が描かれた6月2日放送回は、彼の演技が注目を集めた。

 若き日の草吉は、パン作りを学びたいあまり、当時イギリス領だったカナダに密航。その結果、欧州大戦(第一次世界大戦)でイギリス軍の日本人義勇兵として戦う羽目になってしまう。

 戦場で草吉は過酷な空腹にあがらえず、倒れて動けない仲間の懐からビスケット、いわば乾パンを奪い、泣きながら食べるという生き地獄を味わった。そのトラウマから、乾パンは焼きたくなかった――という話を、草吉は朝田家を出る前、のぶ(今田)の祖父・釜次(吉田鋼太郎/66)を相手に打ち明けたのだ。

 この実力派俳優同士による会話劇には、《2人の対峙が舞台俳優っぽい鬼気迫る感じで良かった》《圧倒的な、阿部サダヲ&吉田鋼太郎劇場でした》など、多くの視聴者がくぎ付けとなった。

 また、中島演じる次郎も、“穏やかで紳士的な昭和の男性”という感じで、視聴者から大好評。最近では6月4日放送回で国防婦人会が“戦争中なのにカメラ遊びとは何事か”と文句を言いに来た際に温和に対応する姿が、《一枚上手》《スマート》などと話題になった。

「倉崎チーフプロデューサーが熱望し、絶賛する俳優陣が、もれなく素晴らしい演技を見せているということですよね。俳優のキャスティングに限らず、倉崎氏が強い情熱を持って制作に取り組んでいるからこそ、『あんぱん』は序盤から現在までクオリティを落とすことなく、視聴者から絶賛される作品に仕上がっているのではないでしょうか」(前同)

 長年の朝ドラウォッチャーでもあるドラマライター・ヤマカワ氏は、過去にNHK朝ドラの制作統括の情熱を感じたエピソードを話す。

「『あんぱん』と同様に、戦前、戦中、戦後を描いた朝ドラ『虎に翼』(24年前期)も人気を博し、視聴率も高かったですよね(全話平均の世帯視聴率は16.8%)。それは、制作統括の尾崎裕和氏が制作に情熱を燃やしていたからこそでしょう。

 尾崎氏は初めて裁判の傍聴に行ったとき、法律があるだけでは平和は達成されることはなく、人々が必死で“闘う”ことでそれが実現するということが、脚本という書かれた物語を俳優が演じることで、初めて感動を与えられるテレビドラマに似ていると感じたそうです。

 そこから、尾崎氏が制作統括を務めた、同局の『恋せぬふたり』(22年1月)の脚本家・吉田恵里香さん、そして『ももさんと7人のパパゲーノ』(22年8月20日)の主人公・伊藤沙莉さんを『虎に翼』に起用し、”2人の戦友と再び一緒に闘えることがとても心強く、うれしい”と語っていました。

 その“闘う”という強い思いが、『虎に翼』を多くの視聴者の共感を呼ぶドラマにしたのでしょう」

『あんぱん』は“戦争”を逃げずに描くことが明らかになっている一方で、倉崎チーフプロデューサーは同作の制作発表時、「生きる喜びが身体中から湧いてくるような、生きていて良かったなと感じていただけるような朝ドラ」にしたいと語っていた。

 妻夫木も加わり、より勢いが増している感もある『あんぱん』。今後しばらくは、戦争の辛い描写が続くと思われるが、見逃してはいけない熱いシーンが多くありそうだ。

ドラマライター・ヤマカワ
編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。