■早い段階で使うほど効果が期待できる抗アミロイドβ抗体薬

 遠藤氏によると、「1~1年半の投与で、脳内に蓄積したアミロイドβが6~8割除去される」という。

「費用は、年間で約300万円。保険適用で、患者の1~3割負担。高額療養費制度を利用すれば、負担額は年間14万円ほど。全国で、すでに約8000人が治療を受けています」(医療ジャーナリスト)

 抗アミロイドβ抗体薬は、MCI(軽度認知障害)など、早い段階で使うほど効果が期待できるという。

 今後の課題は、認知症の“早期発見”だと語るのは、『脳神経まちだクリニック』の院長で、脳神経外科専門医の糟谷英俊氏だ。

「抗アミロイドβ抗体薬が使えるのは、アミロイドPET検査か、髄液検査でアルツハイマー病と診断された人だけと、少々ハードルが高い。より手軽な検査が求められる中で、現在、血液検査やバイオマーカーを使った診断方法の研究も進められています」

 5月17日には、臨床検査事業を長年手がける富士レビオが開発した、アルツハイマー型認知症の血液検査機器の販売が、アメリカで承認された。

「発熱の患者を抗原検査でインフルエンザと診断するように、アルツハイマー病を血液だけで簡単に診断できる日も近いと思います」(前同)

 また、さらなる新薬も登場しているという。

「アミロイドβと並び、アルツハイマー型認知症の原因とされる、“タウ”というタンパク質を除去する新薬の開発が進められています。実現すれば、高い治療効果が期待できます」(同)

 最後に糟谷氏は、こう語った。

「今後、10年間で、認知症の治療は大幅に進化すると思います。人類が認知症を克服する時代は、そう遠くないはずです」

 誰もが安心して年を重ねられる日は、すぐそこまで来ている!

プロフィール
遠藤英俊(えんどう・ひでとし)
認知症専門医、聖路加国際大学臨床教授、名城大学特任教授、いのくちファミリークリニック院長。認知症や医療介護保険制度などを専門とし、国や地域の制度・施策にもかかわりが深く、NHK「クローズアップ現代」などテレビ出演も多い。監修本に「マンガでわかる 認知症の人が見ている世界」シリーズ(文響社)など。
糟谷英俊(かすや・ひでとし)
徳島大学医学部卒業後、東京女子医科大学脳神経外科に入局、東京女子医科大学教授を経て定年退職。2022年4月に『脳神経まちだクリニック』を開院、現在に至る。