■千尋の魂の叫びに視聴者号泣

 そして千尋は(中沢)、「わしは生きて帰れたら、もう誰にも遠慮はせん。今度こそのぶさんをつかまえる。(人妻でも)構わん!」と言い、一気にこう続けた。

「わしもよく、伯父さんが言いよったあの言葉を思い出すがや。何のために生まれて、何をして生きるがか。分からんまま終わるらあて、そんながは嫌じゃ。

 この戦争がなかったら、わしはもっと法学の道を極めて、腹を空かせた子どもらや、虐げられた女性らを救いたかった。この戦争がなかったら、いっぺんも優しい言葉を掛けちゃれんかった母さんに親孝行したかった。この戦争がなかったら、兄貴ともっと何べんも、酒を飲んで語り合いたかった。

 この戦争さえなかったら、愛する国のために死ぬより、わしは愛する人のために生きたい!」

 この魂の叫びに、視聴者は号泣。

《今日のあんぱん、今までで1番泣いた千尋くん推しだから辛い》
《千尋くんは、子役の子の時から心を奪われていたので、我が子のような気持ちで見ていたから、、嵩と千尋のことを思ったら…また泣けてきた》
《十五分、一つの部屋で二人きり、これまでのあれこれが凝縮し、遂に解き放たれた凄まじい回だった》
《名言飛びまくりだよ……言葉もだけど、芝居も良かった……千尋……》
《千尋くんも名言担当というか全部言っちゃった…言わせちゃったのか…》

 と、泣いたという声、そして千尋の魂の叫びを「名言」だと評する声が多く寄せられている。

 一連の流れに、朝ドラ終了直後の情報番組『あさイチ』での“朝ドラ受け”でも、MCの博多華丸・大吉の大吉(54)は「いやぁ……圧巻の15分」と、感服していた。

「千尋は、兄思いで優しく、それでいて文武両道の好青年。今回に限らず、誰かのためを思っての名ゼリフが注目されてきましたよね」(前出のテレビ誌編集者)

 千尋の名ゼリフ――たとえば、4月22日放送回での、兄・嵩(北村)への“説教”だ。

 当時、嵩は中学卒業後の進路に悩んでいたが、その折に一度は自分を捨てて再婚した母・登美子(松嶋菜々子/51)が帰ってきた。嵩は登美子への未練もあり、彼女が一方的に将来の進路を押しつけてきた時も強気に出ることはなかった。

 しかし、成績不振の嵩が千尋に「俺がいない方が勉強はかどるだろ」などと自嘲めいた物言いをした結果、千尋は激怒。取っ組み合いの兄弟げんかに発展した。

 そこで千尋が「兄貴はなんおふくろの言いなりになるがな」「随分前に捨てたと思うちょったら、急にまた戻ってきて母親面して。あの人は息子を医者にして自分の居場所を作りたいだけやろうが! 兄貴はあの人に利用されゆうがよ! 兄貴だって本当は分かっちゅうはずや!」と言い放つ、という場面があった。

 千尋は温厚な性格で、同回まで声を荒らげて激怒する場面はなかった。それだけに、兄を思う彼の迫真の姿は、多くの視聴者の胸を打ったのだ。

 4月28日放送回でも千尋の名ゼリフが話題になった。千尋が法律家になるべく、大学受験の勉強に勤しんでいた時期のエピソードである。

 同回で千尋は、世間で「共亜事件」という疑獄事件があり、関係者は否認している、という新聞記事を嵩に見せて、

「(関係者の無実はまだわからないけど)わしは、正しいことが正しゅう認められる世の中にしたいがや。そのために一日も早よう法の道に進みたい。民の味方になりたいがよ」

 と、嵩に熱く志を語るシーンが描かれた。

「今回の嵩とのやり取りもそうでしたが、千尋は、自身が憤っているときでも相手のことを思っていますよね。そんな優しい千尋も戦争に行ってしまう。そこには、自身にとっての大事な人たちを守りたい、という優しく強い想いがあるからですが……ただ、史実通りなら悲劇が待ち構えている可能性が高い。

 こんなに素晴らしい人物が命を失ってしまう戦争は本当にむごいもので、あらためて二度と起きてはいけないものであると痛感させられる回でもありました。

 嵩も言いましたが、千尋には絶対に生きて帰ってきてほしいですね……」(前出のテレビ誌編集者)

 北村と中沢の圧巻の2人芝居が繰り広げられた6月12日の『あんぱん』には、視聴者から多く意見が寄せられている――。