今年に入ってから大阪でとある“珍客”が見かけられているという。一昔前の日本ではお馴染みの存在だったものの、ここ数年はめっきり姿、形を見かけることがなくなった動物だ。
「大阪府内の吹田市や豊中市、大阪市内で“アカギツネ”が度々目撃されています。ときには、餌を巡って猫と争う姿も見せている。キツネは大阪府の“絶滅危惧種”にも指定されており、都市部で発見されたことは大きな驚きです」(生物系ジャーナリスト)
ここでひとつ気になるのは、「都道府県ごとに絶滅危惧種指定が存在する」という事実。調べてみると、都道府県ごとに“レッドリスト”が作成されている。このリストはどのように作成されるのか。大阪府立環境農林水産総合研究所生物多様性センターの主任研究員の幸田良介氏が語る。
「本質的には様々な生物種を対象とした調査を継続的に実施し、データに基づいて作成するべきものですが、都道府県規模では、絶滅危惧種全てを網羅するような詳細な調査は予算や時間的に厳しいのが現状です。大阪府では、各分野の研究者や大学教員など専門家11人で構成される委員会を設置し、利用可能なデータや文献をもとにリストを決定しました」
キツネの頭数が減少した理由はどこにあるのか。幸田氏が続ける。
「野生動物の多くは、戦後、高度経済成長期の頃には個体数が激減していました。土地開発が進んだこと、さらに人間の生活様式の変化で動物の生息環境が大きく変わったことが理由に挙げられます。雑食性の強いタヌキのように、激変した環境に適応しやすかった動物がいる一方、肉食性が強いキツネは数を減らすようになりました」
なお、大阪府では“イタチ”も絶滅危惧種に指定されている。
「正確に言うと在来種の“ニホンイタチ”を指します。ネズミ駆除用や、毛皮を獲るなどの目的で、外来種であり都市部でも生息可能な“シベリアイタチ”が持ち込まれたことで、“二ホンイタチ”は追いやられてしまったのです」(前同)
東京都でも、近年街中での暴走がワイドショーなどで伝えられる“ニホンザル”や“ニホンリス”が絶滅危惧種に指定されている。とはいえ、多摩市や稲城市など、東京都の西部は森も多く、緑豊かな地域でもある。東京都の“レッドリスト”を執筆した日本大学生物資源科学部動物学科教授の岩佐真宏氏はこのように語る。
「東京近郊の“森林”の多くは人間が作った造林地です。戦中・戦後には木材の使用を予定し、広葉樹を切り倒して、スギやヒノキなど成長が早く真っすぐ育つ針葉樹を植えていました。しかし、この30年は安価な輸入材木に押され、林業が廃れています。針葉樹林の多くが放棄林と化し、森林の維持に必要な管理を施されなくなりました。
結果として、木の実がなる広葉樹は消失し、残った針葉樹も細い木が乱立するようになって日光も入らなくなる。サルやリスにとっては棲家も餌となる木の実もなくなったのです」