■ネズミも絶滅危惧種だった!
森林の質の変化は多くの野生動物に影響を及ぼしているというわけだ。一方、東京都でよく目にする動物の代表例といえば“ネズミ”がいる。しかし、一部のネズミは東京で絶滅危惧種に指定されているのだという。
「日常的に見られるネズミとしては、下水やトンネルを住処とする“ドブネズミ”や建物の配管をつたって生活する“クマネズミ”でしょう。彼らは“家ネズミ”と呼ばれ縄文時代以降に人間とともに朝鮮半島から伝来してきた種類です。
一方で“ノネズミ”と呼ばれる種類は年々減少しています。特に、日本の在来種であり、草原や森林に暮らす“アカネズミ”は人間の開発により棲家を追われてしまったようです」(前出の岩佐氏)
全国的に“当たり前”に見られていた野生動物が消えてしまう日も近いのかもしれない。前出の幸田氏は以下のように語る。
「環境省の調査で、全国的に“ニホンノウサギ”や“スズメ”の数が減少していることが指摘されています。かつては燃料や肥料など、生きるために“森の恵み”を享受していた人間が、燃料革命により石油や石炭に依存。森や耕作地の管理を放棄したことで“日本のふるさと”とも言える里山が失われつつあることが原因でしょう。草原などの棲家や餌が減ってきているのです」
現在では、この里山を取り戻すために、森の手入れや農地を再興させる活動を行っているという。
冒頭の話題に戻るが、大阪のキツネはなぜ、自然界に戻ってこられたのだろうか。
「2つの可能性が考えられます。まずは、大阪に野生動物が住めるほど豊かな緑が戻ってきた可能性。もう一つはキツネが都心で人間との生活に適応し始めた可能性です。どちらが強く影響しているのかはわかりませんが、定住しているのは間違いないでしょう」(前同)
自然環境が日々、変化しているのは間違いないようだ。
プロフィール
岩佐真宏
日本大学生物資源科学部教授。主にネズミ類やモグラ類を対象とした進化生物学が専門。また学術標本の収集・管理も行っており、研究室には約10000点のネズミ類とモグラ類の標本を有する。
プロフィール
幸田良介
大阪府立環境農林水産総合研究所生物多様性センター主任研究員。2011年京都大学大学院博士後期課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員,総合地球環境学研究所プロジェクト研究員を経て,13年より大阪での野生動物や生物多様性の調査研究に携わる。専門は森林生態学,野生動物保護管理学。シカ,イノシシ,アライグマ等の獣害対策の研究とともに,近年は生物多様性に係る普及啓発や人材育成,地域戦略策定支援など,生物多様性の主流化にも取り組んでいる。