■『あんぱん』第12週は物語の最重要週

 ほかにも、のぶに届いた航海中の夫・次郎からの、「どうか明るく毎日を送ってください」という激励と、「残念ながら君の言っていたとおりにはならない」と戦争の結末を匂わせたような手紙は、まるで遺書のようだった。また、嵩が中国の戦地で同級生・岩男(濱尾ノリタカ/25)と再会したが、彼が戦闘の中で……というのは明らかで、みんないなくなってしまうのだろう。

 時代は第11週で大きく進んで、昭和19年7月となり、いよいよ戦況が切羽詰まった状況になってきた。第12週の予告からすると、兵隊が飢えで追い込まれていく厳しい様子や、高知への空襲という、地獄のような光景が描かれそうだ。

 第6週(5月5日~9日)で、のぶの実家の石材店で働いていた・豪(細田佳央太/23)に召集令状が届いてから、1か月(6週)以上も戦争が描かれているが、こんな朝ドラはほかにはない。本作は史実をベースにして女性の活躍を描くという、朝ドラの定番パターンになるかと思いきや、実はかなりの野心作なのだ。

 本作の倉崎憲チーフ・プロデューサーは、『ステラnet』(NHK財団、6月6日更新)のインタビューで、《「戦争パートはちゃんと描こう」とチームでも決めていました》と発言。倉崎CPは、戦場の描写が衝撃を与えた20年前期朝ドラ『エール』でも演出を担当していたが、第12週は『エール』以上、そして第11週を超える神回が展開されそうだ。

 物語のテーマ、“逆転しない正義”とは何かを描くため、のぶと嵩それぞれが、正義が逆転する悲劇に直面する姿をしっかりと描くであろう第12週「逆転しない正義」は、『あんぱん』全体の中でも、もっとも重要な週になりそうだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。