■松本若菜で乗り切った『Dr.アシュラ』

 中居正広氏(52)の女性問題に端を発した騒動でのフジテレビのスポンサー離れによる経費削減のためか、病院に見えないほどチープなセット。特殊造形やCGを使えないのか、杏野(松本)の手元があまり見えず、リアリティを欠く手術シーン。毎回のようにピンチに陥り、杏野の懸命な心臓マッサージで乗り切るというワンパターン展開と、惨敗の条件は見事にそろっていた。

 今回は、患者や医師のプライベートな問題と治療を絡める、医療ドラマの定番ストーリーだったが、惜しいところは多く目についた。それは、聴覚障がい者の女子高生が、両親がいないという杏野の身の上話だけで、父への態度を考え直したところ。もうひとつエピソードをかませれば、より感動は深くなったはずだ。出産直後の大量出血で心拍停止した妊婦の拍動が戻るのも、夫の梵天が名前を呼びかけるだけでなく、言葉にひとひねりほしかった。正直、脚本と演出のツメが甘く、ドラマとしては弱かった。

 それでも配信での惨敗を避けることができたのは、なによりも松本の力が大きい。今回のラストで見せた笑顔のような、たびたび見せるツンデレパターンは絶妙だし、心拍停止ピンチから心臓マッサージというお決まり展開も、またかと思いながらも、つい見入ってしまう力がある。杏野を演じるのが、松本だったからこそだろう。

 変顔や早口などの振り切った演技が話題になり、松本のブレイクのきっかけになった22年4月期『やんごとなき一族』から、亡き母親とあの世からやってきた案内人を切なく演じた24年1月期『君が心をくれたから』、不倫相手の子どもを夫の子だと偽る、托卵妻を演じて話題になった24年10月期『わたしの宝物』と、フジテレビとは縁の深い松本。今回の好演で、ますます絆は深くなりそうだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。