■物語が大きく動き出した『べらぼう』

 高い評価が視聴率の数字に伴わない理由は、本作の“わかりにくさ”にある。それは、吉原という場所が一般的ではないこと。また、徳川将軍家や幕臣は大河ドラマではおなじみだが、本作に登場する絵師や戯作者の面々は歴史の教科書でちょっと見たぐらいで、なじみが薄いこと。さらに、吉原、江戸市中、江戸城内の3つの舞台を平行して描いている、物語の構造も初見殺しとなっている。X上の反応は、内容の細かいところまで触れているが、要するに熱心なファン以外は脱落したようなのだ。

 ただ、今後は物語の構造の“わかりにくさ”は減りそうだ。蔦重は日本橋に出て、さらに幕臣の意知と接点を持つ。誰袖も意知に近づき、さらに松前藩の廣年にも接触していて、今まで別の舞台で動いていた3つの物語が交錯し始めた。その中でも、キーパーソンは事態を引っ掻き回している誰袖と、日本橋に進出する蔦重を支える存在になりそうな、今回初登場の地本問屋「丸屋」の娘・てい(橋本愛/29)だろう。

 また、史実では意知に切りつけ、その傷がもとで死に至らせた、旗本・佐野政言(矢本悠馬/34)も本格的に登場。物語前半の最大のヤマになるであろう、意知の死、田沼意次(渡辺謙/65)の失脚までもうすぐで、あと数回で描かれるはず。意次の失脚の影響を受け、蔦重も誰袖も運命の大波に襲われる、ダイナミックな展開が見られそうだ。

 途中離脱した視聴者も、今なら公式サイトの「過去のエピソード」などを追えば、吉原から日本橋に舞台が変わっていく、これからの展開にまだ間に合うはず。歴代の大河ドラマの中で、稀に見る傑作になりそうな『べらぼう』の、今後の盛り上がりを体験できないのはもったいないだろう。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。