■働き方で「静かな退職」が増加?

 2023年にある就職情報サイトが行った調査でも、正社員3000人のうち半数近くが「静かな退職」を「実践している」と回答。たとえば、「上司に言われたこと以外はしない」「会議で意見を出さない」「残業しない」といった行動がその例とされています。

 働き方にも変化が表れており、特にリモートワーク中心の人では、5割以上が「静かな退職」状態にあるとのこと。共感や信頼の構築が難しくなることが背景にあると考えられています。

 一方で、対面とリモートを組み合わせたハイブリッド型勤務ではこの割合が低く、直接的なコミュニケーションが心理的安全性を支えている可能性もあるようです。

 こうした働き方は、「やる気がない」と見られることもありますが、実際には自分の生活や価値観を優先する、持続可能な働き方のひとつとも言えるでしょう。

 企業側の姿勢も変わりつつあり、たとえばパナソニックHDは1万人規模の人員削減を発表。「人手が足りないほうが工夫が生まれる」との考えがその裏にはあるようですが、このような方向性は「静かな退職」が広がる現代においては、必然なのかもしれません。

 どこまでが仕事で、どこからが人生か——その境界線を見つめ直す、新しい働き方の兆しとして「静かな退職」はさらなる広がりを見せていきそうです。

トレンド現象ウォッチャー・戸田蒼
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。