■朝ドラのレベルを上げた『あんぱん』

 X上では、《戦争と飢餓状態をしっかり描かれた。そこからきっとアンパンマンの礎となるものが生まれるんだろう。人間の愚かさと美しさを説いた、亡くなったお父さん(二宮和也)の話も良い。第12週が、「あんぱん」全編を通しての肝になるんじゃないか》などと、戦争描写への反響が大きい。

 ゆで玉子をむさぼり食べる康太たちを見る嵩の表情は、絶望以上の絶望を表現していた。さらに、過去に岩男がリンの親を殺してしまい、我が子のようにかわいがっていたのに、リンに敵討ちされるという、憎しみの連鎖。それを岩男が受け入れる姿までも描かれた。ここまで戦争に踏み込んだ朝ドラは存在しない。

 制作統括する倉崎憲チーフ・プロデューサーは、『ステラnet』(NHK財団、6月6日更新)のインタビューで、《「逆転しない正義」を求めて自問自答していくところは、この「あんぱん」をやるにあたって絶対に描くべきこと》と語っている。本作の戦争シーンは、ただ悲惨さを訴えるために描くのではなく、“逆転しない正義”を描くために必要だったのだ。

 戦中編をここまで壮絶に見せられてからの戦後編はどうなるか。すべてのエピソードがいつも以上に刺さりまくるはずで、これまでの朝ドラで描かれた戦後とは、違うものが見えてきそうだ。テーマに真摯に向き合い、朝ドラの質を変えてしまったといえば、主人公たちの“生きづらさ”を描いた、24年前期『虎に翼』を思い出すが、『あんぱん』も朝ドラを変える傑作になるのは間違いないだろう。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。