■長い期間一緒に過ごす同僚との人間関係

 一方、気になるのは長い期間一緒に過ごす同僚との人間関係だ。

「仕事を覚えると何も言われなくなりますが、最初は仕事ができないから、殴られたり、蹴られたり。みんな危険な職場なので、真剣です。でも、喧嘩した次の日には同じ釜の飯を食う。不思議な関係です」

 漁船で働く人の中には、ヤミ金に追われて逃げるように船に乗り込む者や、帰港と同時に豪遊する強者もいるという。

「漁に出て金を稼ぎ、港に戻った足でキャバクラや風俗で金を使い果たし、また借金。港にはヤクザが待ち構え、稼ぎを回収し、また金を貸すという終わらないループが続きます。でも、そういう人って、なぜか明るいんですよね(笑)」

 船の上には、こんな楽しみもあるという。

「専属コックがいるので、ステーキやパスタなども食べ放題。激しい大西洋に鍛えられたベテランと一緒に働くことも多く、男のカッコよさを学べましたね。今は機械化も進み、労働環境も良くなっていると聞きますから、人気なのもうなずけます」

 夢と現実が交錯するマグロ漁船の世界。船上のドラマは今、変貌を遂げている。

菊地 誠壱(きくち・せいいち)
1970年、宮城県生まれ。1987年、親の借金のためマグロ漁船に乗せられる。20歳で3年間のマグロ漁船勤務を終了し下船。期間工勤務を経て、21歳で家電量販店に就職し、30歳で店長に就任。2019年にYouTubeチャンネル「元マグロ漁船員チャンネル」を開設し、船の上での日常やブラック労働の実態など、マグロ漁船員の知られざる裏話を紹介している。