日々、若者文化やトレンド事象を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏が本サイトで現代のトレンドを徹底解説。今回、戸田氏が注目したのは、リストラにまつわる常識の変化です!

「黒字なのにリストラ」という一見矛盾した動きが、今や令和の大企業で当たり前のように行われています。かつては経営難の末に断行される“苦渋の決断”だった人員削減が、今では経営が順調でも「構造改革」や「未来への備え」として実施されるようになりました。しかも最近では、その対象に若年層までもが含まれているのです。

 たとえばパナソニックグループは、黒字経営が続いているにもかかわらず、2025年度中に国内外合わせて1万人の削減を予定。グローバルの全従業員の約4%にあたる規模で、早期退職者の募集も含まれています。同社は「ここで経営基盤を変えなければ、10年後、20年後にわたり持続的に成長させることはできない」と説明しており、業績悪化による決断ではないとしています。

 東京商工リサーチの調査によると、2024年に早期退職を募った上場企業は前年からおよそ4割増の57社にのぼります。そのうち実に6割が黒字企業という結果が出ています。つまり今や、黒字であっても「未来のため」に人員を削る時代になっているのです。

 また、近年のリストラでは、これまで対象とされてこなかった若年層にもメスが入るようになっています。なぜ今、若い世代がリストラの対象になっているのでしょうか。その背景には、主に2つの要因があるといいます。

「1つは、“将来構想”に合致する人材かどうか。企業は、10年先、20年先の競争に勝ち残るための再構築を急いでおり、“未来の戦力にならない”という判断基準があるのです。AIやIT・デジタル技術を活用して競争力を向上させるデジタルトランスフォーメーション(DX)といった新たな事業領域に注力する企業では、今すぐフィットしない人材を再配置する余裕がないという事情もあります。

 もう1つは、『育成に時間がかかる人材』に対する投資を控える傾向です。特に大企業では、即戦力化が難しい若手社員を長期的に抱え続けること自体が経営リスクと見なされるようになってきました。ポテンシャルはあるけれど“今は戦力にならない”若手社員が、その波に巻き込まれるケースも少なくありません。若年層にとっては厳しい現実ですが、逆に言えば、自らをアップデートし続ける柔軟性や、転職市場での価値を意識することで、チャンスをつかめる時代でもあるのです」(経済ライター)