■監督にとっては「沈黙は金」や!

 それに比べると、今の監督は概してよくしゃべるし、ワシから見たら、みんな、トークがうまい。

 オカ(岡田彰布)なんかも「アレ」とか、「おーん」なんて言葉を連発し、マスコミをにぎわした。「アレ」は流行語大賞まで取ったからな。こんなのはタイガース史上、初めてやないか。

 さて、前置きが長くなったけど、本題は藤川球児や。

 球児は現役を引退後に、野球解説の仕事を4年間やった。これが、とにかく評判が良かった。投手や打者の心理を読んで分析し、次の展開を的確に予想する。これがまた、当たるんや。

 しかも、分かりやすい言葉で、丁寧にしゃべるから、プロ野球ファンの評判は上々やった。中には「球児はしゃべり過ぎ」という声もあったけど、解説者がしゃべらんでどないすんねん。

 そんな球児が監督に就任してすぐ、ワシは本人に一つだけ注文をつけた。

「ええか、余計なことをしゃべったらアカンぞ。おまえは賢いから、つい気の利いたことを言いたくなるかもしれん。けどな、監督になったら、沈黙は金や。マスコミは鵜の目鷹の目やし、簡単に手の平返しする。持ち上げといて、はしごを外すのは、この世界の常道や」

 今のところ、采配ぶりもベンチでの姿も、堂々たるもんや。もともと野球IQは抜群に高いから、ペナントレースという長丁場を見据えた戦い方をしとる。試合後のコメントを「まじめすぎる」というファンもいるようやけど、それでええ。おもろいコメントしたら、勝てるちゅうもんやない。

 そういえば、広島戦で坂本誠志郎が頭に死球を食らい、球児が激高してホームベース付近まで詰め寄ったことがあった。あれは自軍の選手を守るという指揮官らしい姿勢やし、その闘志は選手にも必ず伝わる。

 球児率いる今季のタイガース、ワシは間違いなく、やってくれると思うで。

川藤幸三(かわとう・こうぞう)
1949年7月5日、福井県おおい町生まれ。1967年ドラフト9位で阪神タイガース入団(当初は投手登録)。ほどなく外野手に転向し、俊足と“勝負強さ”で頭角を現す。1976年に代打専門へ舵を切り、通算代打サヨナラ安打6本という日本記録を樹立。「代打の神様」「球界の春団治」の異名でファンに愛された。現役19年で1986年に引退後は、阪神OB会長・プロ野球解説者として年間100試合超を現場取材。豪快キャラながら若手への面倒見も良く、球界随一の“人たらし”として今も人望厚い。