■「おまえは敵や!」と怒鳴られて……

 私のほうが知っている若いタレントがゲストに来ることもあり、ようやく番組のお役に立てるようになったところで、86年、きよしさんが参議院選挙への出馬で降板することになります。

 やすしさんは、私と桂文珍さんと司会をやることになるんですが、「きよしさんに捨てられた」と感じたんでしょうか。荒れに荒れていました。

 お酒の匂いをプンプンさせて、ゲストに向かって「おまえ、誰や!」と叫んだり、周りのスタッフに「おまえは敵か? 味方か?」と絡むようになりました。

 この頃、関西でやすしさんと桂三枝さん(現・桂文枝)の『三枝やすし興奮テレビ』(毎日放送)という番組が始まって。初回のゲストが私だったんです。

 メイクをしてたら、やすしさんが乗り込んできて、額と額がつきそうな距離で「おまえは敵や。ぶっ殺したる!」と言われたんです。

 私は冷静に「何のことでしょうか?」と聞くと、やすしさんは「勘の悪い女やな! 敵言うたら敵や! 帰れ!」と怒鳴られて。私はまだ25歳でしたから、泣いちゃいました。

 そこで、吉本の偉い方と話すことになって、三枝さんと、違う番組で来ていた(島田)紳助も同席してくれたんです。三枝さんから「埒が明かないから帰ったほうがいい」と言われたので、泣きながら帰り支度をしていたら、吉本の偉い方は「東京から来たのに、山田邦子は根性がないな」ですって。厳しい世界です。

『三枝やすし興奮テレビ』は、やすしさんが二日酔いで無断欠席したことで降板になったそうです。きよしさんが議員になったことで漫才ができなくなって、やすしさんは寂しさから酒量が増えたんでしょう。

「自分には漫才しかない」と思っていたやすしさんにとって、大切な物を奪われた感覚があったんじゃないかしら。

山田邦子(やまだ・くにこ)
1980年、芸能活動開始。81年、デビュー曲「邦子のかわい子ぶりっ子バスガイド編」で有線大賞新人賞受賞。『オレたちひょうきん族』『やまだかつてないテレビ』などで人気になり、多数の冠番組を持つ。2024年10月「日本喜劇人協会 11代新会長」に就任。