■これまで散々描かれてきた嵩のヘタレぶり
嵩(北村)は幼少期からのぶ(今田)のことが好きだったが、奥手すぎて告白することが出来ず。視聴者はおろか、劇中の人物たちからも苦言を呈されてきた。
たとえば、戦時中の1937年が舞台の第7週(5月12日~16日)。大学生の嵩は東京で自由を謳歌していたが、軍国主義に染まっていたのぶに電話で怒られてしまい、関係が悪化。それでも嵩は「(戦後に)銀座の街を歩いてほしい」と思いを込めて彼女へのおみやげに“赤いハンドバッグ”を購入し、夏休みに帰省したが、関係は気まずいまま。嵩は「別に会えないならそれでいい」などと先延ばしにし、渡そうとしなかった。
その後、嵩は弟・千尋(中沢元紀/25)の後押しもありハンドバッグを渡すチャンスは作れたが、「(こんな贅沢して、)戦地の兵隊さんのこと考えてみいや」などと口論になり、結局渡せなかった。
そうやって嵩が思いを伝えられずにいる間に、のぶは見合い相手で一等機関士の若松次郎(中島歩/36)との結婚を承諾したことで、嵩は告白しないまま失恋。5月27日放送回(第9週)では、嵩が「ずっと伝えたかったことがあったんだ」と、のぶに告白しようとするが「やっぱりいいや」とやめてしまう――という展開も描かれた。
また、6月12日放送回(第11週)では、嵩が弟・千尋の出征前に2人きりで話し合う場面で、これまでの不甲斐ない態度を千尋に叱責された。千尋は、自分ものぶが好きだったことを明かし、それでも結婚相手が兄なら……と思っていたのに、次郎に先を越されたことに憤り、こう言い放った。
「何をグズグズしよったがな!」「のぶさんの言う通り、兄貴はたっすいがーのアホじゃ!」
そして、現在(1946年)になっても、嵩は相変わらずだった。7月10日放送回(第15週)では、夫も亡くし、教師も辞めて必死に生きているのぶを「自分みたいな奴が好きになっちゃダメなんだ」とウジウジ。
同月15日(第16週)では、のぶの似顔絵を、自分が携わった雑誌『月刊くじら』の表紙イラストに使うアピールもしたが、本人に気付かれることはなく、視聴者からは《小細工しないで告白しろよ!》《脈ナシすぎる》などとツッコミが相次いだ。ちなみに、やなせさんが、『月刊高知』の表紙に暢さんらしき女性のイラストを描いた、というのは実話である。
そうした積み重ねがあるため、
《嵩!早くのぶに気持ちを伝えんかい!たっすいがーはいかん!!》
《嵩、今度こそはのぶに気持ちを伝えるのか? そしてそれに応えてくれそうなのぶ やっと気持ちが通じ合える展開に…?》
《来週はついに嵩が告白する?!あの赤いバッグ渡せる???》
といった声が、多く寄せられているのだ。
「嵩は赤いハンドバッグを渡せないまま、現在も保管していると見られています。7月10日放送回でのぶが自分のバッグを壊してしまった際には、《今こそあの赤いバッグを》《伏線?》といった声も寄せられました。
幼少期から強調して描かれてきた嵩の“たっすいがー”ぶり。それを乗り越えての告白&成就、というカタルシスは、視聴者が求めるところではないでしょうか」(前出の女性誌編集者)
今後の『あんぱん』に期待することについて、朝ドラウォッチャーであるドラマライター・ヤマカワ氏はこう話す。
「第17週(21日~)の『あなたの二倍あなたを好き』は、これまでとは打って変わってロマンチックなサブタイトルですね。朝ドラヒロインのド定番、恋愛に鈍感キャラののぶに対し、嵩がどんな告白をするのか、期待がふくらみます。
第18週以降は、嵩の百貨店(※史実でやなせさんは上京後、三越に入社した)への就職、2人の結婚が描かれるでしょうが、なによりも楽しみなのは、モデルのやなせたかしさんのように、漫画家、詩人、脚本家、編集者などと、嵩が多彩な才能を発揮することです。
ドラマの尺は限られているし、主人公はのぶなので、どこまで描かれるかわかりませんが、『アンパンマン』誕生までの足ががりになるエピソードをしっかり見たいですね。作詞を手掛けた『手のひらを太陽に』の歌手に、乃木坂46の久保史緒里さんが決まったのも楽しみですね」
戦争編→お仕事編→恋愛編と、さまざまな展開で多くの登場人物を登場させ、掘り下げていく『あんぱん』。物語は折り返し地点を迎えているが、嵩の恋は実るのか――。
ドラマライター・ヤマカワ
編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。