■9枚目から大抜擢? 安青錦の三役は幻に

 なぜか? というと、先場所、三役候補の前頭筆頭から5枚目までの10人全員が負け越してしまったから。そこで新三役に昇進したのが、6枚目で10勝の欧勝馬(おうしょうま)だった。下馬評では、9枚目で11勝、敢闘賞を受賞したウクライナ出身の新鋭・21歳の安青錦(あおにしき)が新三役を掴むのではないかといわれていた。もし、安青錦が三役になっていたら、初土俵から所要11場所での昇進という快挙だった。

今場所も期待の安青錦

 ただ、今回の髙安の小結据え置きは、エコひいきか、何かの思惑が絡んでいるとは思えない。まだ若い安青錦はすぐに番付を上げるだろうし、9枚目からの抜擢は無理がある。審判部としては「今、無理に(三役に)上げなくても」という考えなんだろう。安青錦が日本人だったら、話は別だろうけど、「番付は生き物」だ。強くなる力士は自分の力でチャンスを掴むだろう。

 さて、新入幕力士は、日大出身・草野と20歳の若碇改め、藤ノ川の2人。藤ノ川の父親は、元前頭・大碇の現・甲山親方で、「藤ノ川」は所属の伊勢ノ海部屋伝統の四股名でもある。

 相撲は押しも寄りも器用にできて、若手では巧い部類だ。ただ、小柄(176センチ、119キロ)なので、ケガが怖い。相手の中に入って、うるさい相撲を取るのはいいけれど、タイミングが悪いと大型力士に体ごと潰されてしまうからだ。

 藤ノ川と言えば、オレの同期生(83年春場所初土俵)服部が、幕内昇進後に名乗った四股名だ。大学時代に学生横綱、アマチュア横綱のタイトルを取って、幕下付け出しで入門。ところが腰痛が悪化して26歳で引退した。中卒のオレとは7歳も違うから現役時代は面識がなかったが、その後、彼がキャスターをしている頃はよく話をした仲だった。

 6月6日、藤ノ川は64歳で逝去。6代目・藤ノ川には遺志を継いで頑張ってほしい。

貴闘力忠茂(たかとうりき・ただしげ)
1967年9月28日、兵庫県生まれ。二子山部屋(入門時は藤島部屋)入門後、83年に初土俵。最高位は東関脇。2000年に幕尻(前頭14枚目)で初優勝する。02年に引退し、大鵬部屋の部屋付き親方となるが10年に野球賭博関与のため日本相撲協会を解雇される。現在は焼肉店『ドラゴ』を経営。