■矢野雅哉の実力は史上最高レベル!
広島の二塁には菊池涼介という名手がもう一人おる。この2人で、どれだけセーフになってもおかしくない打球をアウトにしたことか。ピッチャーにとって、こんなに強い味方はないで。
阪神のバッターを見てても、矢野と菊池のところに打球を飛ばすと、「しまった。こりゃアカン」ちゅう顔をするからな。つまり、敵チームに守備でプレッシャーをかけられるわけで、今のような投高打低の時代には大きな戦力や。
実際、ワシも2人の守備で失点を防ぎ、広島が僅差の試合をものにしてきたケースを幾度となく見てきた。
矢野はプロ5年目の26歳。守備はとてつもなくうまいけど、課題はある。菊池と比べ、プレーが荒いというか、上半身と下半身の動きがバラバラになって、足がバタつくことがある。しかし、これは練習と経験を重ねれば克服できる。言い換えれば、まだまだうまくなるちゅうことや。
ワシはプロ野球史上最高のショートはヨッさんだと思ってきた。しかし、矢野はひょっとすると、ヨッさんを超えるショートになるかもしれん。年齢を考えると、十分ありうる話や。
しかも二塁には菊池がおる。矢野と菊池の守備を見てると、タイガースが誇った二遊間コンビ、ヨッさんと鎌さん(鎌田実)を思い出す。2人の守備練習は見てるだけで楽しかった。動きが速く、軽やかだから、まるで卓球のラケットでボールをポンポンやりとりしてるように見えたわ。
菊池は現在35歳。普通やったら引退の2文字が頭にちらつく頃や。しかし、守備の衰えは少しも見られん。だから、菊池に会うと、ハッパをかけるんや。
「最低でも、あと10年、45歳までやらなあかんぞ。おまえを超えるセカンドは向こう10年出てこんから」
「カワさん、無理です」
そう言って苦笑いしてるけど、内心ではやる気満々とちゃうかな(笑)。
川藤幸三(かわとう・こうぞう)
1949年7月5日、福井県おおい町生まれ。1967年ドラフト9位で阪神タイガース入団(当初は投手登録)。ほどなく外野手に転向し、俊足と“勝負強さ”で頭角を現す。1976年に代打専門へ舵を切り、通算代打サヨナラ安打6本という日本記録を樹立。「代打の神様」「球界の春団治」の異名でファンに愛された。現役19年で1986年に引退後は、阪神OB会長・プロ野球解説者として年間100試合超を現場取材。豪快キャラながら若手への面倒見も良く、球界随一の“人たらし”として今も人望厚い。