■『べらぼう』で新境地を切り開いた小芝風花

 小芝の演技がさらに輝いたのは、瀬川が鳥山に身請けされ、妻・瀬以になってからだった。瀬以が蔦重への思いを捨てきれないことを鳥山検校が見抜く、小芝と市原のヒリヒリしたシーンは、X上で絶賛され、《蔦重と話す時の瀬以のくだけた話し方と、自分と話す時の花魁のような丁寧な口調をどう思ったかな。鳥山検校、こわいよー》など、ドラマに夢中になっている様子がうかがわれた。

 また、蔦重が鳥山の家を訪ねたあと、鳥山が瀬以の腕をつかんで脈が速いことを指摘し、瀬以が鳥山に触れられたからだとごまかすシーンも圧巻。目が見えなくても妻の心の動きが気配でわかる、検校の切なさがひしひしと感じられた市原の演技も、蔦重への想いと検校への申し訳なさが入り混じった小芝の演技も、ともに見事だった。

 小芝の演技は確かに素晴らしかったが、それは市原あってこそだった。市原の役作りの熱意はすごく、目を白濁させるため、視界が20%くらいしか見えないコンタクトを着用したり、三味線の音に心を埋めるために稽古を重ねて鳥山検校になりきっていた。市原の熱演があったこそ、瀬以(瀬川)の悲恋が深みを増したのだ。

 小芝は『べらぼう』出演以来、配信ドラマ『私の夫と結婚して』(Amazonプライムビデオ)で佐藤健(36)とダブル主演、現在放送中の松本潤(41)主演の日曜劇場『19番目のカルテ』(TBS系)で新米医師を演じて絶好調。もともと演技の幅は広いが、さらに深みを増し、トップ女優に成長した。その陰には『べらぼう』での経験、さらに市原の存在があったことを覚えておきたい。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。