■キュンに徹した『めおと日和』の潔さ
また、本作と同じ春ドラマ『夫よ、死んでくれないか』(テレビ東京系)が、不倫夫、モラハラ夫、束縛夫に妻たちが復讐する内容で好調だったように、最近は夫への復讐系が増えていて、ストレートにキュンを楽しめるものは少ない。しかし、需要がなくなったというわけではない。復讐系に疲れたキュン好きな視聴者層に、本作が響いてヒットしたのだろう。
次に、戦争の扱い方にもヒットの理由がある。舞台は日中戦争が始まる前年の昭和11年だが、戦争の影が感じられる程度で、決定的な悲劇は予感されない作りだった。いつかは戦地に向かうのであろうという、適度な不安の中で、戦争は、なつ美の瀧昌への想いをかきたたせるスパイスとして作用していた。
今年前期のNHK朝ドラ『あんぱん』も、本作が放送されていた同時期に昭和初期が舞台になっていたが、昭和12年と1年違った。すでに日中戦争が始まって男たちは戦地に招集されており、1年違うだけで一気に重苦しい悲劇が起こっていた。昭和11年という絶妙な年代設定も、本作の大きくヒットに作用していた。
ムズキュンに振り切ったシンプルな恋愛ドラマに見える『めおと日和』だが、以上のように、実は細かいところまで作り込まれているのがヒットの理由だ。今年後半のドラマでも、同様にトレンドの逆をいくような作品が出てくるのか注目したい。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。