■『あんぱん』後半が輝きを増したわけ

 のぶと嵩の結婚生活が始まり、嵩が三星百貨店を辞めるまでが第19週のヤマ場だった。ほかにも、のぶの妹たちの上京、健太郎の再登場、新キャラのいせたくやと手嶌治虫の登場と、それぞれのキャラが輝いていた。さらに、のぶと嵩の仕事ぶりも描かれ、いかにも朝ドラらしい要素がてんこ盛りで、視聴率アップに貢献したようだ。

 言ってしまえば、ベタな展開だ。豪(細田佳央太/23)に赤紙が届き、終戦を迎えるまで、7週という長きに渡る戦争描写が話題になるなど、かなり野心的な作品かと思いきや、いつもの朝ドラに戻った感じがする。しかし、あの戦争があったからこそ、戦後の物語が深みを増し、今の盛り上がりがあるともいえる。

 たとえば、メイコが『のど自慢』出場を夢見る動機が、戦争で失った青春をやり直したいからだったこと。また、のぶが戦争孤児・未亡人を支援したいと、代議士の鉄子に訴えるのは、自身が軍国主義に加担したため。悲惨な過去があったからこそ、今の平和な姿が輝き、胸にしみてくるのだ。

 そもそも、『あんぱん』における大切なテーマ「逆転しない正義」は、のぶと嵩の戦争を経ての平和への思いから生まれたもの。その点で本作は、戦後80年の今年に、もっともふさわしい朝ドラといえる。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。