今、ネット上で農林水産省公式のショート動画が話題になっている。22時近くまで仕事をする姿を追ったリアルは、「ハードワークすぎる」「広報がそんなブラックな働き方を公開するのか」と広く拡散されたが、その背景には何があったのか──。
話題となったのは、農林水産省のYouTubeチャンネル「BUZZMAFF ばずまふ(農林水産省)」にて8月3日に公開された、『【霞が関勤務】 農水省職員の一日vlog』というタイトルのショート動画。農水省の男性若手職員の仕事に密着しながら、時刻と業務内容をテロップで説明するという内容だった。
動画で職員は朝の9時30分に登庁、メールチェックをした後、「こども霞が関見学デー」というイベントで配る資料を準備。エアコンがない場所で印刷作業をしたり、配布セットを5000セット作ったりなど、リアルな作業風景が映される。18時からはデスクワークに戻り、残った作業を消化。21時からは動画の編集を行い、この日の業務が終わったのは21時45分。帰宅の途についたのは22時だった。
朝の9時30分から夜の21時45分までとい12時間以上(昼休憩を1時間とすると11時間)の業務に、YouTubeのコメント欄では、《くそブラックやな》《広報で若手だからという理由でSNS担当になってそうでかわいそう。通常業務もあるのにそれしながらってキツそう》など、労働時間の長さを指摘するコメントが寄せられた。
また、同じ動画が同5日に農水省のインスタグラムでも公開されると、さらに拡散されることになり、《当たり前のように10時まで残業してて草 ほんまに大丈夫か》、《国が働き方改革を進めようとしてる割には、どうなんだろ、この働き方》など、ここでも労働時間の長さを指摘する声が寄せられていた。
かつての日本社会では“残業は美徳”とされ、終電まで働く光景も珍しくなかった。しかし今は、働き方改革関連法の施行により労働時間に明確な上限が設けられている。2019年4月、大企業から導入されたこの制度では、時間外労働は原則「月45時間・年360時間」までとされている。
繁忙期など特例が認められても「年720時間以内」「単月100時間未満」などの基準が課される。2020年には中小企業にも適用が拡大され、かつての青天井残業は法律上不可能になった。長時間労働が当たり前だった時代と比べ、日本人の働き方は少しずつ変わりつつある。
厳密に言えば農林水産省の職員はサラリーマンではなく国家公務員ではあるが、農水省の職員のハードワークぶりが際立ってしまったこの動画。SNSでは“広報がこんな働き方の動画をあげるなんて”といった疑問も寄せられるなか、当サイトは農林水産省に動画公開の背景を取材した。答えてくれたのは、YouTubeチャンネルやSNSの運用を行なう広報担当者だ。
まず、今回の動画の主目的は「『こども霞が関見学デー』というイベントの告知」だったという。
「『こども霞が関見学デー』は文部科学省が音頭をとり、霞が関全体でおこなうイベントです。農水省のとりまとめを広報が担当していて、省内の管理をはじめ、他省庁とのやりとりやイベント用のチラシづくりなど、農水省の職員が頑張ってイベントの準備をしていることを伝えたかっただけなのですが、退勤時間がクローズアップされてしまいました」(広報担当者=以下同)