日々、若者文化やトレンド事象を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏が、本サイトで現代の時流を徹底解説。いま戸田氏が注目するのは、倒産が急増している美容室の効率化戦略だ。
美容室業界で倒産の波が勢いを増しています。2024年度の倒産件数は2月時点で197件に達し、帝国データバンクの調査開始以来、最多ペースです。前年から2割増という異例の速度で進行しており、背景にはスタイリストの人手不足、美容資材や水道光熱費、テナント料の上昇などのコスト高、さらに新規出店による競争激化が重なっています。
しかし、これだけの負担がありながら、施術料金の値上げは進んでいません。全国の平均カット料金は2024年4~12月で約3700円。過去5年間でわずか4%の上昇にとどまります。物価高の中でこの価格帯は経営を圧迫し、倒産を免れたサロンでも3割が赤字。業績悪化は全体の6割に上り、コロナ禍の影響が最も強かった2020年度に次ぐ厳しさです。
そんな中、破格の「690円カット」が注目されています。名古屋市の「ヘアーサロンIWASAKI」では平日午後限定でカットが690円。通常価格の980円でも格安ですが、この価格設定により来店客が急増。同サロンは北海道から沖縄まで1100店舗超を展開し、佐賀県伊万里市では月間来店数が6700人、人口の1割が利用するという驚きの実績もあるのだとか。
この価格破壊を支えているのが徹底した効率化です。来店時の受付はセルフ、カットでは髪を濡らす工程を省略。タオルの代わりに使い捨てネックペーパーを使うことで、洗濯や乾燥にかかる水道・光熱費を月6万円規模で削減しているそう。さらに、カラー剤のチューブはペンチで最後の一滴まで使い切り、備品の修理も店長が対応するなど、無駄を徹底的に排除しているといいます。
スタッフ育成も効率的です。動画マニュアルを活用し、指導の空き時間に視聴させて現場投入。指導のバラつきを抑え、残業ゼロで技術習得を可能にしています。こうした工夫の積み重ねが、690円でも成り立つビジネスモデルを実現しているのです。
同様にカット・カラー専門店「チョキペタ」も格安路線で成長しています。シャンプーはオートシャンプーを活用し、美容師が他の施術に回れるように工夫。セルフブローやセルフレジの導入により、さらに人件費を抑えています。格安店は「速さ・安さ・そこそこの品質」を効率よく提供し、高回転で利益を出す戦略です。