日々、若者文化やトレンド事象を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏が本サイトで現代のトレンドを徹底解説。今回は、中高年の間で広がる深刻な現象を深掘りする。

 十分な収入があり、貯金もそれなりにある。それでも「お金が減っていくのが怖い」「将来、生活できなくなるかもしれない」と不安に押しつぶされるような感覚に陥ってしまう……そんな“貧困妄想”という現象が、中高年世代の間にじわじわと広がりつつあるようです。

 これはただの倹約癖ではありません。うつ病にともなう妄想の一つとされ、適切な対応が求められる深刻な心理状態だと言われています。

 “妄想”とされるゆえんは、周囲からどれだけ「大丈夫」と言われても本人の中ではその不安が揺らぐことがないためです。たとえば、40代後半で年収1000万円・貯金1500万円であれば、一般的な感覚では「貧困」には当てはまりませんが、それでも「到底足りない」「すぐ底をつく」という思考に支配され、必要な支出すら極端に避けてしまうようになります。

 やがては日中に電気を使わない、食事を極限まで減らす、必要な医療費や交際費を「無駄」と感じて拒むように……。