■地味なのに貫禄充分な今田美桜
一方で、主人公ののぶ(今田)はというと、ずっとサポート役にまわっていた。出版社で認めてもらえなかった、あんぱんを配る太ったおじさんの絵を好きだと言って嵩(北村)を励ましたり、子どもとお母さんの話だからと、ラジオドラマ『やさしいライオン』を書くことをためらう嵩の背中を押して書き上げさせる。のぶがメインで動くエピソードは皆無だった。
立ち位置としては地味ではあったが、なんとなく今週から、今田のふるまいにどっしり構えた、貫禄や余裕のようなものが感じられる。のぶ自体はあまり動いていないのに、ずっとどこかにいるようだったのだ。ドラマの現場をリードする、主演俳優としての“座長感”が急に増してきたのだろう。
第21週「手のひらを太陽に」の第105話で、のぶが「何者にもなれんかった」「赤ちゃんを産むこともできんかった」と秘めた思いを吐露し、嵩が「僕たち夫婦は、これでいいんだよ」と、優しく肯定するシーンがあった。ヒロインが何者かになるのが朝ドラの定番である中、何者にもならなかったとはっきり明言するのは、実は異例なことだ。
しかし、“のぶが嵩を支える”というのが、このドラマの本来の構図だ。アンパンマンの原型となる絵をホメたり、ラジオドラマを描くことを後押しするエピソードで、やっと、のぶが本当にのぶになったと言える。そんな第22週で今田に感じた貫禄は、それを踏まえたものなのかもしれない。
これまで、のぶがあまり目立たないことが批判されてきたが、それでこそ、のぶだったのだ。史実によると、今後、『アンパンマン』の絵本が出版されるが、評論家や幼稚園の先生に酷評され、なかなか人気は出ないようだ。しかし、どっしり構えたのぶがいれば、なんの心配もないだろう。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。