日々流行の最先端やニュースを追いかけるトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏。そんな戸田氏が注目したのは、今では考えられない「昭和の常識」でした。
昭和の時代は、今とはまったく違う価値観や暮らし方が当たり前でした。日常の風景や習慣には、現代から見ると驚くべきものが数多くあり、その一つひとつが当時の社会や人々の意識を映し出しています。ここでは、昭和を象徴する10の出来事や文化を振り返ってみましょう。
昭和の空気は、今よりずっと「煙たかった」――。電車に乗れば、まず鼻をつくのは線香のようなタバコの匂い。特急列車の喫煙車両は薄暗く、灰皿は吸い殻と灰で山盛り、窓ガラスはヤニで曇っていました。映画館では暗闇の中に赤く光るタバコの火が点々と並び、病院の待合室でも、医者と患者が煙をくゆらせながら世間話。職員室は常にモクモクで、先生は口にタバコをくわえたまま答案用紙を採点。タバコは大人の象徴であり、吸わないほうがむしろ珍しい存在でした。
飲酒運転も日常の一部で、今では厳罰の対象ですが、昭和の街では「飲んだら乗る」が普通のこと。忘年会や新年会では、運転してきた人に平気で酒を注ぎ、「気をつけて帰れよ」と笑顔で見送るのが当たり前で、お盆や正月、親戚の集まりでは運転してきたお父さんに熱燗を注ぎ、「一杯くらい平気平気」と勧める。アルコール検知器も代行サービスもなく、「酔っている=陽気でいいこと」という空気感がまだ生きていました。
「1960年に道路交通法で飲酒運転の規定ができましたが、この時は呼気1リットル中のアルコール量が0.25mg以上の場合に運転が禁止されていたものの、罰則はありません。1970年になると基準値に関わらず飲酒運転は禁止とされ、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金が科されるようになりましたが、現在ほど厳しいものではありませんでした」(生活情報サイト編集者)
昭和の道は今よりずっと危険で、バイクはノーヘル運転、風を切る爽快感を味わいながら町中を走りました。車のシートベルトは飾りのように存在していましたが、締める習慣はほとんどなく、警察に止められることも稀。子どもは後部座席で立ち上がって外を眺めたり、窓から顔を出して風に髪をなびかせたり、時には父親の膝の上に座りハンドルを握らせてもらうことも。チャイルドシートは存在せず、事故の危険よりも「楽しさ」と「自由」が優先されていたのです。