■ちぐはぐ感があった『ぼくほし』

 その一方で、《白鳥さんと幸田先生の距離がいよいよってだけでも十分成立するのに、ここにきて教師の労働問題と若者の薬物問題を同時にやるの?》《日本の闇とか学校の問題を突きたいのだろうが、 少し心安まらないと言うかムムスかも》など、2人のやり取りのあと、労働環境、ドラッグとリアルな社会問題が出てきて戸惑う声も。

 たしかに、健治(磯村)と珠々(堀田)のメロいシーンのあとに、生活指導・山田(平岩紙/45)の家庭のトラブルから吹き出した、教員の過重労働問題。そして、生徒会副会長・斎藤(南琴奈/19)が巻き込まれる若者のドラッグ問題を入れてくるのは、かなりチグハグな感じはする。

 ただ、穏やかな世界を展開させつつ、生徒同士のトラブルや親子間の問題など、リアルな若者たちの問題を合わせて描写するのは、本作がずっと続けてきたことだ。今回の健治に立ちはだかるハードな問題は、物語のクライマックスを前に、それをより派手に展開させたのではないだろうか。

 リアルな問題をぶつけるのは、あえてのことなのだろうが、それが視聴者に嫌われた原因かもしれない。問題は毎回、明確に解決されることなく、現実的な落とし所で話が進んでいく。前回の生徒会議長・北原(中野有紗/20)の父親のモラハラ問題も、普通のドラマなら父親が改心するのだろうが、北原が父親を拒否して終わりという、リアルではあるがすっきりしないものだった。

 はっきりした問題解決を求める人は、モヤッとするだろうし、穏やかな世界が好きな人には、いらないと感じてしまうかもしれない。要するにチグハグ感がある。独特な世界観なのでドラマ好きな人は熱く支持するが、大多数の人にとってはいろいろ物足りなく感じるのだろう。

 とはいえ、穏やかなままでは視聴率や配信の数字は取れなさそうだし、ある程度、大きな事件を入れるのは仕方のないことだろう。数字だけ見れば、今期の「がっかりドラマ」に入れられてしまいそうだ。今期ドラマの中で間違いなく良作なのに、もったいない。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。